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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
331/1603

3

「善大王さん、はーい」

「ん? おっ、あーん」


 互いに相手の口へと運び、食した。


「うん、おいしいな」

「おいしー」


 そこからは本格的に出店巡りが始まり、綿菓子やチョコバナナ、かき氷、クレープ、ヤキソバ、スパイラルポテト──螺旋状の揚げた芋──などを食べていく。

 量が多いからか、途中からは二人で一人分を分け合っていた。

 そんな量であっても、後半になるころにはアルマも満足そうにしていた。善大王はというと──少々胃がもたれ始めている。


「(祭り価格というべきか……少し高いな。まぁ、民も買っているみたいだし、消費が進んで良いことだな)」


 物珍しさと、祭りの魔力で消費が促されていた。きっと、雷の国はこの大規模消費活動で財源が潤うことだろう。

 とはいえ、祭りの本番までは少しある。前哨戦でここまで盛り上がっているともなれば、本番はどれほどに賑わうのだろうか、と思考を巡らせた。

 途端、アルマの姿が見えないことに気付く。


「……どこに行ったんだ?」

「はい! 善大王さん!」


 いきなり背後に現れたアルマは、中途半端に硬くて薄い、特殊な材質製の仮面を手渡した。


「ん? お金持っていたのか?」

「えっとね、みてたらくれたよぉ」

「ちゃんとお礼は言えたか?」

「うん」

「さすがはアルマだ。偉いな」


 誉める意味を含め、彼女の頭を撫で、善大王は周囲を見回す。


「ライカちゃんを捜してるのぉ?」

「いや、それもあるが……」


 途端、彼はアルマの手を引くと、走り出した。

 少女を困惑させたまま放置するのは彼らしくもないが、今の場合はちゃんとそれを理解しながらも、優先事項を切り替えている。

 表通りは人に満ちていたが、少し離れた場所には出店もなく、静かな様子。だが、状況は穏やかとはいえない。


「おい、大丈夫か!」


 倒れている男に声を掛けた後、身なりを一瞬で検める。

 紺色をした布製──実際は特殊な繊維のようだ──のベストを身に纏い、濃水色の長袖と紺色のスラックスという、少し変わった私服や制服に見える格好。


「(警備隊の人間か)」


 ベストの左胸部分や、帽子には警備隊の紋章が刻まれている。

 雷の国の縫製技術などから考えるに、このような服装を部外者が作るのは不可能だろう。

 これは余談だが、このベストは刃を通さず、弾丸なども防ぐという防御仕様だ。

 軽装にも見えるものの、部外者で作ることは不可能と断じても、おおよそ間違いはないだろう。

 異世界文化を取り入れているからこその、奇妙な超技術(オーバーテック)装備というべきか。

 観察は短く済ませ、すぐさま生命機能の確認に入る。


「(胸部や腹部に動きはある……一応は生きているな。ただ、魔力の具合も相当に酷いな)」


 そっとベストを撫でると、指先にはキラキラと光る細かな破片が付着していた。


「善大王さん、この人大丈夫かなぁ」


 ようやく息切れから復帰したらしく、アルマは倒れている男の顔を覗きこむ。


「……軽い昏倒みたいだ。この装備のおかげでどうにかなったらしい」

「治療したほうが良いかな?」

「ああ、頼む」


 彼女に治療を一任した後、真剣な表情なままで思考を巡らせた。


「(ベストの繊維が奇妙な形に破壊されている。そして外傷は一切ナシ……まぁ、この感じはアイツだろうな)」


 治療を終えたアルマの手を引くと、目的を持っているかのように善大王は歩みを進める。

 そうしていると、三、四人というかなりの数の犠牲者が発見された。もちろん、全員が同一の状態である。

 ずいぶんと酷い状況ではあるが、アルマがいるからには、大きな問題とはならないだろう。

 治療に加わろうとした瞬間、突如として視線を感じ、再度周囲に目を向ける。


「犯人さんかな?」


 どうにもアルマすら気付いたらしく、善大王へと問いかけるように、視線を送った。

 それには応えず、手を握ったまま奇妙な気配の元へと向かう。

 そこにいたのは……。


「……見張りなんて無粋じゃないか?」


 近付いて、ようやく善大王は相手の正体に気付く。


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