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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
329/1603

雷の祭典

 ──ダークメア戦争開戦より少し前のこと……。


「そろそろお祭りだな。フィア、お前はどうする?」


 善大王が話題に出していたのは、雷の国で開かれるという祭典だ。

 異世界文化を取り込んでいる国だけはあり、その祭りは奇妙奇怪にして、初見であればなかなかに刺激的だという。

 ただ、今回は善大王としての参加ではなく、一般人として祭りを見にいくことになっていた。

 件のティア事変の際、観光客の回収前にラグーン王と接触し、その時に訪れることを約束していたのも大きかったのだろう。


「私はライカに呼ばれてたから。だから──」

「分かった。じゃあフィアは別行動ってことで……」

「ち、違うの! 呼ばれてたから丁度よかったなぁって! 一緒にいくから!」

「分かった分かった」


 軽く意地悪をし、フィアの態度を楽しみながらも、善大王は椅子に寄りかかる。


「なぁフィア」

「なあに?」

「……もう、四年目だな」

「ライトが善大王になってから? それなら、あと一ヶ月くらいあるんじゃない?」


 意外に無粋な発言に、善大王はなんとも言えない表情を浮かべた。


「いや、まぁそうだがな……しかし、どうして封印の予定が組まれないんだ?」

「えっ?」

「先代の時代には、俺も封印の地に同伴したんだが、俺の就任前だろ? つまり、三年目の中盤くらいでするはずじゃないのか?」


 光の国が率先してスケジュールを決めている、と思うかもしれないが、実はそうではない。

 王が交代することも多々ある都合からか、こうした行事の決定は天の国が担当しているのだ。

 その天の国が連絡を寄こさないことには、善大王も安易に動けない。


「……たぶん、先代善大王は聞いてたんだと思う」

「何を?」

「次の善大王の名前を」


 怪訝そうな顔をし、善大王は「それは、誰から」と聞いた。


「次の善大王がいるって分かったからこそ、封印をいつもよりも強力にしていたのかもしれないわね。お父様も、その件で調べに行っていたみたいだし」


 言われて見ればという風に、善大王は天の国で魔物と戦ったことを思い出す。

 あのような再封印まで余裕がある内に確認をしにいくなど、そうそうあることではないだろう。

 ただ、フィアは彼の問いには答えていなかった。


「ま、面倒な行事が増えないに越したことはないがな」

「それとね、ライト」

「ん? なんだ?」

「……四年()に封印するんだよ? だから、来年のどこかでするのかもしれないね」


 現在の経過年数は約三年であり、あと一年残っている。表現上勘違いを起こしていたが、善大王は予期せぬこととばかりに、驚いて見せた。


「そういえばそうだったな……」

「ま、とりあえず祭りに行くってことで」

「ああ、そうだな」


 執務室内で全てが完結したかのように思われたが、そこに一人の来客が現れる。


「善大王さん、あたしも行きたいよぉ」


 扉を開けて登場したのは、アルマだった。彼女もまた、ライカに招待されたようだ。


「ん? そうだな、せっかくだし」

「えっ、アルマは親衛隊を連れていけばいいじゃない」


 フィアは食い下がるが、アルマは善大王の傍に寄ったかと思うと、躊躇いなく腕に抱き付いた。


「だって、あたしも善大王さんと一緒に行きたいよぉ……だめぇ?」


 目を潤ませ、愛玩犬のような仕草で首を傾げたアルマを、善大王はじっと真面目な表情で見る。


「……いいとも。ほら、よしよしよしよし」


 まるで犬を扱うように、彼女の頭を優しく撫で、かなり満喫しているように見えた。

 そうされているアルマも喜んでいるのだが、フィアの方は少し──いや、かなり不満そうである。


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