雷の祭典
──ダークメア戦争開戦より少し前のこと……。
「そろそろお祭りだな。フィア、お前はどうする?」
善大王が話題に出していたのは、雷の国で開かれるという祭典だ。
異世界文化を取り込んでいる国だけはあり、その祭りは奇妙奇怪にして、初見であればなかなかに刺激的だという。
ただ、今回は善大王としての参加ではなく、一般人として祭りを見にいくことになっていた。
件のティア事変の際、観光客の回収前にラグーン王と接触し、その時に訪れることを約束していたのも大きかったのだろう。
「私はライカに呼ばれてたから。だから──」
「分かった。じゃあフィアは別行動ってことで……」
「ち、違うの! 呼ばれてたから丁度よかったなぁって! 一緒にいくから!」
「分かった分かった」
軽く意地悪をし、フィアの態度を楽しみながらも、善大王は椅子に寄りかかる。
「なぁフィア」
「なあに?」
「……もう、四年目だな」
「ライトが善大王になってから? それなら、あと一ヶ月くらいあるんじゃない?」
意外に無粋な発言に、善大王はなんとも言えない表情を浮かべた。
「いや、まぁそうだがな……しかし、どうして封印の予定が組まれないんだ?」
「えっ?」
「先代の時代には、俺も封印の地に同伴したんだが、俺の就任前だろ? つまり、三年目の中盤くらいでするはずじゃないのか?」
光の国が率先してスケジュールを決めている、と思うかもしれないが、実はそうではない。
王が交代することも多々ある都合からか、こうした行事の決定は天の国が担当しているのだ。
その天の国が連絡を寄こさないことには、善大王も安易に動けない。
「……たぶん、先代善大王は聞いてたんだと思う」
「何を?」
「次の善大王の名前を」
怪訝そうな顔をし、善大王は「それは、誰から」と聞いた。
「次の善大王がいるって分かったからこそ、封印をいつもよりも強力にしていたのかもしれないわね。お父様も、その件で調べに行っていたみたいだし」
言われて見ればという風に、善大王は天の国で魔物と戦ったことを思い出す。
あのような再封印まで余裕がある内に確認をしにいくなど、そうそうあることではないだろう。
ただ、フィアは彼の問いには答えていなかった。
「ま、面倒な行事が増えないに越したことはないがな」
「それとね、ライト」
「ん? なんだ?」
「……四年後に封印するんだよ? だから、来年のどこかでするのかもしれないね」
現在の経過年数は約三年であり、あと一年残っている。表現上勘違いを起こしていたが、善大王は予期せぬこととばかりに、驚いて見せた。
「そういえばそうだったな……」
「ま、とりあえず祭りに行くってことで」
「ああ、そうだな」
執務室内で全てが完結したかのように思われたが、そこに一人の来客が現れる。
「善大王さん、あたしも行きたいよぉ」
扉を開けて登場したのは、アルマだった。彼女もまた、ライカに招待されたようだ。
「ん? そうだな、せっかくだし」
「えっ、アルマは親衛隊を連れていけばいいじゃない」
フィアは食い下がるが、アルマは善大王の傍に寄ったかと思うと、躊躇いなく腕に抱き付いた。
「だって、あたしも善大王さんと一緒に行きたいよぉ……だめぇ?」
目を潤ませ、愛玩犬のような仕草で首を傾げたアルマを、善大王はじっと真面目な表情で見る。
「……いいとも。ほら、よしよしよしよし」
まるで犬を扱うように、彼女の頭を優しく撫で、かなり満喫しているように見えた。
そうされているアルマも喜んでいるのだが、フィアの方は少し──いや、かなり不満そうである。




