13β
──マナグライド城内。
長い渡り廊下の中間で、二人の青年がすれ違った。
黒い髪の青年は表情を変えず、茶髪の青年の背を叩き、胸倉を掴む。
「おい白ォ……あの新隊長はテメェが手引きしていたんだろうが」
「……こちらには、私の意志は入っていませんよ」
白が手を振り払おうとすると、黒が自ら退いた。
「このオレに楽しいウォーキングをさせてくれた件については、どう落とし前をつけるんだ?」
冗談、というよりも皮肉のような言葉だった。ただ、白は落ち込む様子も見せず、笑い出す。
「楽しかったなら、なによりです」
皮肉返しなのか、それとも天然なのか、長く白と共にいる黒ですら迷わされるような発言だった。
もちろん、それで終わりではなく、ジョークにはオチをつける
「冗談はここまでで──黒が出てきてしまえば、ディードさんはすぐ殺されていたかもしれません」
「親父も、あのガキも、そしてお前も──どうして奴に肩入れしやがる……俺には分からねぇな」
黒だけは対面していない為、三人の考えが全く見えていなかったのだ。もし出会ったとしても、あまりの弱さに失望していたかもしれないが。
「さぁ? ……そういえば、黒からトニーさんに謝っておいてください。あの人に限ってはないとは思いますが、私を殺したと思っているかもしれないので」
「何故俺が?」
「それを私の口から言わせますか?」
黒は露骨に嫌そうな素振りをしながらも頷き、白の横を通り抜けていった。
「(……黒には見えていませんか)」
残念そうな顔をしながら、それまで進んでいた方向へと向き直り、歩き始める。
不運とすら感じてしまう程の連続、黒との話を終えた直後に、今度は夢幻王と出くわした。
「お父様、こんにちは」
「白か、こんなところでどうした?」
細かい予定すら管理されているわけではないが、白が城にいることは珍しいらしく、不意に出会った夢幻王も驚いたような反応をしている。
「いえ、久々に城の散策を、と」
「なるほど……まぁ程々にしておけ」
小さくお辞儀すると、夢幻王の横を通り過ぎようとした。
だが、顔が真横に行きついた瞬間、囁くような声が彼の耳に届く。
「ある程度は許すが……程々にしておけ」
「……はい」
特に意味もないようにも感じられる発言だったが、白はその言葉がどれほど厳しい言葉かを理解していた。
「(お父様のあの様子……気付いていましたか。しかし、どうして?)」
死したように見せかけ、実は生きていた白だったが、彼が仕込みと称して二人の冒険者を呼び寄せたのは事件発生の前である。
多量の偽装を噛ませ、お人好しの冒険者を呼ぶという作戦は成功し、ティアとエルズという最強クラスの使い手がやってきたのだから彼の読みに間違いはなかった。
しかし、この冒険者の呼び寄せは計画の外にあったらしく、誰にも気付かれないように細心の注意を払い、探知できないはずの方法を使用して行われている。
それでも、夢幻王には気付かれてしまった、というのが問題だ。
それで怒り、処罰という直接的な解決をせず、自主的に止めさせようとするのは不思議にみえる。ただ単純に、子供には甘いだけかもしれないが。




