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翌日にはディードの疲れも完全に取り除かれ、一応の現場復帰ということになった。
ここで一応、と追加した理由はただ一つ。本日、第三部隊としての活動を彼が行わない為だ。
彼が本日行うことは、部隊長適性試験である。
そもそも、このような試験は今までなかったのだが、ディードへの褒賞として特別導入された試験だという。
ちなみに、本来であれば軍の現行隊長などが推薦し、全部隊長がそれを認め、さらにそれが夢幻王にも受領されなければならない。つまり、凄まじく手間が掛かるのだ。
逆に言えば、部隊長になる者は直接的に試験を受けることはなく、なるかどうかの選択をする程度である。
閑話休題、軍の演習場──書類で指定された場所──に到着したディードは近くにあったベンチに座ると、今回の試験関係者が来るのを待った。
彼は常識を持つ人間であるが為、来る時間はそこまで早くない。それ故に、長い時間を待つこともなく、関係者達の到着を迎えることができた。
試験官と思われる者が三人。その試験官とは違い、装備を付けてきている男が一人。
そして、試験監督としてか、黒いマントと凱甲を纏った夢幻王もこの場に現れる。
「なかなか動かしづらい人間が多く、遅れたことには謝罪しよう」
「わたしも来たばかりなので大丈夫です」
「分かった。では軽く紹介を済ませよう。彼が君と戦う部隊長候補の一人……バロックだ」
銀色の全身鎧の装備を付けている男に指が差され、ディードはバロックに目を向けた。
もっといえば、試験官の三人には見覚えがあったので、迷う要素はなかったのだが。
「後は知っていると思うが、第一部隊長と第三部隊長、そして第四部隊長だ」
濃い眉や髭が特徴的で、勇猛さを感じさせる男は国土防衛部隊こと第一部隊のカッサード。
痩身で穏やかな表情をした老人が、ディードの所属する第三部隊のラゴス。
三人の中では最も若いが、隈があり、顔がやつれている女性が術者部隊こと第四部隊のヘレンだ。
全員と面識があるからか、軽く会釈をし、夢幻王の方に向き直る。
「本来であれば座学試験を行うべきなのだが、そういった知識は後々からでも補強できると、戦闘試験のみとなった」
「新規作成部隊の部隊長は一番槍として、隊員の士気を高める必要もあるからな!」
カッサードは夢幻王の言葉に追加するように、大きな声で理由を言った。
「新規作成部隊? 書類にも書かれていなかったのですが……どのような部隊ですか?」
「ディード君、そういうことは志願の時点で聞いておくべきだよ」
ラゴスはディードの上司として、彼の不手際を注意する。高圧的な注意ではないからこそ、理性的に問題を反省させられる──人間の性質をよく理解していてのことだろう。
「新規部隊の名は先遣部隊。他の部隊よりも先に前線へ赴き、牽制の戦闘を行うという、危険の多い部隊だ。だからこそ、隊員の士気が大きく関わってくる。……説明はこれくらいにして、試験を始めるぞ」
動かしづらい人間が多いという発言から分かるとおり、部隊長達は暇ではない。
そして発言している本人は、それ以上に多忙なのだ。部隊長の決定という重大な試験ではあるのだが、それでも多くの時間を割くことはできないのだろう。
さて、肝心の対戦相手だが、ディードは全く面識のない相手だった。
全身鎧にヘルムという、誰が誰でも同じな外見──多少体格差はでるが──であることも相成り、どこかで会っていても分からなかっただろう。
両者が演習場の中央付近から距離を取った後、軽く戦闘前の礼を済ませた。
そして、夢幻王の何気ない合図一つで、情緒もなく戦闘は開始される。




