表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
32/1603

 ポルテという服屋に入った俺とシアン、そしてミネアは各自散開した。

 ただ、俺に関してはシアンの下着代を払わないといけないので追従する。


「どれにする?」

「これでいいですよ」


 とても簡素な下着だった。まぁ、この際穿ければ何でもいい、という感じなんだろう。

 店主の疑惑の目を受けながらも下着を購入し、シアンに手渡した。気の利いたことに、試着室があったのですぐに着替えるように言い、俺は店内に戻っていく。

 流行の店であることは幼女からの口コミで知っていた。ただ、幼女の趣味に関しては客観的に理解している程度であり、俺の美的感覚とはなかなか釣り合いが取れない。

 ただ、俺はさほど服に重きを置いていない。だからこそ幼女が好きな服でいいのだ。

 本当ならば《風の大山脈》の問題を解決し、それをダシにフィアを自由にするよう交渉する予定だった。それも今となっては夢の成れの果てだ。

 だが、土産程度は持っていってもいいだろう。とりあえずは何か買って行ってやろう。


「お客さん、何かお探しですか?」


 店主が話しかけてきた。どうにも、俺が女児用の場所に立っていたことを怪しんでいるらしい。


「いや、何か良い服がないかな、とな。あれだ、娘の土産にな」

「娘ですか! いやぁ、お若いのに立派ですね。私にも娘がいるんですよ、まだちっこいんですが」


 年齢はそこまで若くないが、見た目のせいで思った以上に若く見られることがある。

 しかし、どうにも、触れちゃいけない場所に触れてしまったようだ。嘘がバレないように姪だとか言うべきだったか。


「どうにも服の善し悪しが分からなくてな。教えてくれないだろうか」

「はい! これなんてどうですか?」


 店主の声――ではない。その声は幼女のそれだった。

 辺りを見渡してから下方向に目を向けると、空色のエプロンドレスを持った幼女が立っていた。年齢は五歳くらいだろうか。


「こら、お店に出ちゃダメと言っただろう!」

「いや、構わない。これを頂こう」

「えっ……よろしいんですか?」

「子供がいいというんだ、何か通じるところがあるかもしれない」


 割と高かったが、幼女が見せてくれた笑みだけでその値段に釣り合いは取れた。


「光の国宛てに送ってくれ」

「えっと、お客様のお名前は……」

「善大王だ」


 そう言った瞬間、店主は驚いたような顔をした。「口外はしないでくれよ」

 服を購入し終え、俺はシアンの様子を確認しに行くことにする。

 試着室の布に背を預け、中から聞こえる布擦れ音を聞く。それだけで妄想が高まり、少々性欲が強くなっていった。

 少しくらい、覗いてもバレないか。

 布を僅かに開き、中を覗き込むと、赤い髪が目に入った。


「あっ」

「えっ?」


 次の瞬間、ミネアと目と目が合った。


「あんた……何しているのよ!」

「わ、悪い! 間違えた!」


 すぐに布を閉じると、俺は隣の試着室に飛び込んだ。


「はぁ……うっかりうっかり――ん?」


 呼吸を整えながら視線を下ろしてみると、涙目で怯えているシアンの姿を見つける。


「し、しあん?」

「ぜん、だいおうさん?」


 しばらく見つめ合い、俺は静かに試着室を出た。と、同時にミネアのドロップキックが顔面に炸裂する。

 寸前に避けていた為、体重が全部乗っかることはなかったが、それでも割と痛い。


「あんた、シアンちゃんに何しているのよ!」

「間違っただけだ! ミネアがあんな怒るから悪いんだぞ!」

「なんで責任転嫁しているのよ!」


 刹那、俺はミネアの握っている妙な布に興味を抱く。

 試着していたものかとも思ったが、どうにも湿りけを帯びている。店のものになにかするような無作法さんではないだろう。とすれば。


「それ、シアンのだよな?」

「……ち、違うわ」

「でも、シアンの匂いがするぞ。俺の鼻を侮ってもらっては困る」


 ミネアは濡れた下着を服の下に隠すと、頬を紅潮させながら俺に殴りかかってきた。


「変態! 変態の癖に!」

「いや、ミネアも変態だろ」


 論理を含めないミネアの態度も、幼女特有のそれだった。だからこそ、俺は深くは追及しない。追及せずに、優しく抱擁した。


「ミネア、君の気持ちは良く分かる。だから、気にしなくていい」

「あのさ……なに、抱きついているのよ」

「いや、変態を嘆く必要などないよ、と励ましているんじゃないか」


 ミネアの背後に赤い《魔導式》が展開され、俺の額からは一筋の汗が流れる。


「なんだなんだよ、ただスキンシップをだな!」

「この変態がー!」


 その後、着替えを済ませたシアンの登場でこの場は無事に収まり、何事もなく店を出ることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ