2
ポルテという服屋に入った俺とシアン、そしてミネアは各自散開した。
ただ、俺に関してはシアンの下着代を払わないといけないので追従する。
「どれにする?」
「これでいいですよ」
とても簡素な下着だった。まぁ、この際穿ければ何でもいい、という感じなんだろう。
店主の疑惑の目を受けながらも下着を購入し、シアンに手渡した。気の利いたことに、試着室があったのですぐに着替えるように言い、俺は店内に戻っていく。
流行の店であることは幼女からの口コミで知っていた。ただ、幼女の趣味に関しては客観的に理解している程度であり、俺の美的感覚とはなかなか釣り合いが取れない。
ただ、俺はさほど服に重きを置いていない。だからこそ幼女が好きな服でいいのだ。
本当ならば《風の大山脈》の問題を解決し、それをダシにフィアを自由にするよう交渉する予定だった。それも今となっては夢の成れの果てだ。
だが、土産程度は持っていってもいいだろう。とりあえずは何か買って行ってやろう。
「お客さん、何かお探しですか?」
店主が話しかけてきた。どうにも、俺が女児用の場所に立っていたことを怪しんでいるらしい。
「いや、何か良い服がないかな、とな。あれだ、娘の土産にな」
「娘ですか! いやぁ、お若いのに立派ですね。私にも娘がいるんですよ、まだちっこいんですが」
年齢はそこまで若くないが、見た目のせいで思った以上に若く見られることがある。
しかし、どうにも、触れちゃいけない場所に触れてしまったようだ。嘘がバレないように姪だとか言うべきだったか。
「どうにも服の善し悪しが分からなくてな。教えてくれないだろうか」
「はい! これなんてどうですか?」
店主の声――ではない。その声は幼女のそれだった。
辺りを見渡してから下方向に目を向けると、空色のエプロンドレスを持った幼女が立っていた。年齢は五歳くらいだろうか。
「こら、お店に出ちゃダメと言っただろう!」
「いや、構わない。これを頂こう」
「えっ……よろしいんですか?」
「子供がいいというんだ、何か通じるところがあるかもしれない」
割と高かったが、幼女が見せてくれた笑みだけでその値段に釣り合いは取れた。
「光の国宛てに送ってくれ」
「えっと、お客様のお名前は……」
「善大王だ」
そう言った瞬間、店主は驚いたような顔をした。「口外はしないでくれよ」
服を購入し終え、俺はシアンの様子を確認しに行くことにする。
試着室の布に背を預け、中から聞こえる布擦れ音を聞く。それだけで妄想が高まり、少々性欲が強くなっていった。
少しくらい、覗いてもバレないか。
布を僅かに開き、中を覗き込むと、赤い髪が目に入った。
「あっ」
「えっ?」
次の瞬間、ミネアと目と目が合った。
「あんた……何しているのよ!」
「わ、悪い! 間違えた!」
すぐに布を閉じると、俺は隣の試着室に飛び込んだ。
「はぁ……うっかりうっかり――ん?」
呼吸を整えながら視線を下ろしてみると、涙目で怯えているシアンの姿を見つける。
「し、しあん?」
「ぜん、だいおうさん?」
しばらく見つめ合い、俺は静かに試着室を出た。と、同時にミネアのドロップキックが顔面に炸裂する。
寸前に避けていた為、体重が全部乗っかることはなかったが、それでも割と痛い。
「あんた、シアンちゃんに何しているのよ!」
「間違っただけだ! ミネアがあんな怒るから悪いんだぞ!」
「なんで責任転嫁しているのよ!」
刹那、俺はミネアの握っている妙な布に興味を抱く。
試着していたものかとも思ったが、どうにも湿りけを帯びている。店のものになにかするような無作法さんではないだろう。とすれば。
「それ、シアンのだよな?」
「……ち、違うわ」
「でも、シアンの匂いがするぞ。俺の鼻を侮ってもらっては困る」
ミネアは濡れた下着を服の下に隠すと、頬を紅潮させながら俺に殴りかかってきた。
「変態! 変態の癖に!」
「いや、ミネアも変態だろ」
論理を含めないミネアの態度も、幼女特有のそれだった。だからこそ、俺は深くは追及しない。追及せずに、優しく抱擁した。
「ミネア、君の気持ちは良く分かる。だから、気にしなくていい」
「あのさ……なに、抱きついているのよ」
「いや、変態を嘆く必要などないよ、と励ましているんじゃないか」
ミネアの背後に赤い《魔導式》が展開され、俺の額からは一筋の汗が流れる。
「なんだなんだよ、ただスキンシップをだな!」
「この変態がー!」
その後、着替えを済ませたシアンの登場でこの場は無事に収まり、何事もなく店を出ることになった。