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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
316/1603

6

 言葉を聞いた後にライムは大きく目を見開いた。

 そして、倒れそうになりながらも強い信念と、それを表すかのような眼光を放つディードの姿をしばらく見つめる。


「(案外、適当な読みというわけではなさそうですわね……)」


 何かを悟ったように、ライムは幾つか残していた《魔導式》を消すと、口許を手で隠して笑った。

 これ以上戦闘をする気ではない、ということを表したかったのだろう。

 その意味はディードにも伝わり、限界まで引っ張った糸のような緊張は解かれ、脱力しながらその場に倒れ込んだ。


「馬鹿な人ですわ、普通の人間(・・・・・)でこんな無茶をするなんて……でも、これはこれで、面白い発見ができましたわ」


 ライムは無数の刃に刺され、血塗れになっている彼の元へと歩み寄る。

 命を奪う一手となる刃の内、一本だけを引き抜いたライムは笑った。


「本当に馬鹿な人……」

 引き抜いた一本を遠くに投げたライムはディードの左手を両手で握った。「先払いということで通しますわ」


 ライムがそう呟くと、ディードの左手と彼女の両手からは、夜空のように暗い色をした藍色の光が放たれる。

 その瞬間、ディードの体中に刺さっていた藍色の刃は一本残らず消え去った。それに付随するように、全ての傷が治った。傷口塞がるのではなく、その事実自体が消滅したというべきか。


「ん……」


 それまで死亡にも近い状態だったディードは、何事もなかったかのように起き上がった。


「あなたの勝ちですわ」

「勝ち……?」

「えぇ、あなたはわたくしの予想を越えてくれましたわ。十分楽しめましたので、わたくしの負けということにしておいてあげますわ」


 初めから勝負などした気がなかったディードは困惑しながらも、その話を聞き終わり次第、自分が勝利したというよく分からない状況にも納得した。


「だが、わたしは多くの傷を負ったはずではなかったのではないか?」

「あれは……全部幻術ですわ。最初の一本だけは本物だったので、騙されたみたいですが」


 ライムは先程引き抜き、投げておいた刃がある場所を指差す。

 彼女が指差した方に存在していた藍色の刃を目視し、ディードは事態を把握した。


「それにしても、黒幕の存在に気付いてくれるとは思ってもみませんでしたわ。誰かが分かっていないけれども、あなたに付き合った甲斐がありましたわ」


 嬉々として語るライムの姿を見て、ディードは笑みを浮かべる。


「やはり、君は組織とは関係がなかったのだな」

「それとこれとは話が別ですわ……全く関係ないかと言われますと、否定しなくてはなりませんわ」

「それはつまり、闇の巫女としてか?」

「いえ、黒幕様のお手伝いとして……ですわ」


 組織に関係しているどころか、組織の黒幕に最も近いという、重大な事実を躊躇いなく明かすたライム。

 とはいえ、それよりも先に聞き直すべきことがあると、多くの考えを吹き飛ばした。


「ライムが先程言っていたこと……組織として行った所業は、その黒幕がやったのか?」

「えぇ、そのお方が行いましたわ。せっかくなら、お会いになりませんこと?」


 黒幕がこの場に居た、という予想外の事態に混乱しかけるディード。

 しかし、彼はこの戦争を止める為にこの場所にやってきた。真の黒幕という存在と会うことができれば、万に一という確率で止められるかもしれない。

 唯一対面することができる機会を逃してなるものか、と意気込んだディードは頷いた。


「ということですわ。来て下さいな」


 ライムが小さく手を叩いて合図をすると、多くある扉の一つから黒幕と呼ばれる者が現れる。


「お前はッ!」


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