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言葉を聞いた後にライムは大きく目を見開いた。
そして、倒れそうになりながらも強い信念と、それを表すかのような眼光を放つディードの姿をしばらく見つめる。
「(案外、適当な読みというわけではなさそうですわね……)」
何かを悟ったように、ライムは幾つか残していた《魔導式》を消すと、口許を手で隠して笑った。
これ以上戦闘をする気ではない、ということを表したかったのだろう。
その意味はディードにも伝わり、限界まで引っ張った糸のような緊張は解かれ、脱力しながらその場に倒れ込んだ。
「馬鹿な人ですわ、普通の人間でこんな無茶をするなんて……でも、これはこれで、面白い発見ができましたわ」
ライムは無数の刃に刺され、血塗れになっている彼の元へと歩み寄る。
命を奪う一手となる刃の内、一本だけを引き抜いたライムは笑った。
「本当に馬鹿な人……」
引き抜いた一本を遠くに投げたライムはディードの左手を両手で握った。「先払いということで通しますわ」
ライムがそう呟くと、ディードの左手と彼女の両手からは、夜空のように暗い色をした藍色の光が放たれる。
その瞬間、ディードの体中に刺さっていた藍色の刃は一本残らず消え去った。それに付随するように、全ての傷が治った。傷口塞がるのではなく、その事実自体が消滅したというべきか。
「ん……」
それまで死亡にも近い状態だったディードは、何事もなかったかのように起き上がった。
「あなたの勝ちですわ」
「勝ち……?」
「えぇ、あなたはわたくしの予想を越えてくれましたわ。十分楽しめましたので、わたくしの負けということにしておいてあげますわ」
初めから勝負などした気がなかったディードは困惑しながらも、その話を聞き終わり次第、自分が勝利したというよく分からない状況にも納得した。
「だが、わたしは多くの傷を負ったはずではなかったのではないか?」
「あれは……全部幻術ですわ。最初の一本だけは本物だったので、騙されたみたいですが」
ライムは先程引き抜き、投げておいた刃がある場所を指差す。
彼女が指差した方に存在していた藍色の刃を目視し、ディードは事態を把握した。
「それにしても、黒幕の存在に気付いてくれるとは思ってもみませんでしたわ。誰かが分かっていないけれども、あなたに付き合った甲斐がありましたわ」
嬉々として語るライムの姿を見て、ディードは笑みを浮かべる。
「やはり、君は組織とは関係がなかったのだな」
「それとこれとは話が別ですわ……全く関係ないかと言われますと、否定しなくてはなりませんわ」
「それはつまり、闇の巫女としてか?」
「いえ、黒幕様のお手伝いとして……ですわ」
組織に関係しているどころか、組織の黒幕に最も近いという、重大な事実を躊躇いなく明かすたライム。
とはいえ、それよりも先に聞き直すべきことがあると、多くの考えを吹き飛ばした。
「ライムが先程言っていたこと……組織として行った所業は、その黒幕がやったのか?」
「えぇ、そのお方が行いましたわ。せっかくなら、お会いになりませんこと?」
黒幕がこの場に居た、という予想外の事態に混乱しかけるディード。
しかし、彼はこの戦争を止める為にこの場所にやってきた。真の黒幕という存在と会うことができれば、万に一という確率で止められるかもしれない。
唯一対面することができる機会を逃してなるものか、と意気込んだディードは頷いた。
「ということですわ。来て下さいな」
ライムが小さく手を叩いて合図をすると、多くある扉の一つから黒幕と呼ばれる者が現れる。
「お前はッ!」




