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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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火と水の姫

 食料が尽きる寸前で水の国に到着し、俺は一安心していた。

ただ、ほとんど食っていないような生活だっただけに、はやく普通の食事を摂りたい。

 適当な食堂に入り、食事を済ませる。冷えた飯ばかりだったことを考えると、値段が安かろうとも満足だ。

 街を歩き、観光客のように文化的な建造物などを見て回った。早く戻ろうと思っても、足が向いてくれない。

 ティアに勝つ方法、そんなものがあるだろうか。最後に殺す気で放っていたとして、本当に倒せていたか。


「善大王さん?」


 序盤に肉体強化をし、近接戦をしながら《魔導式》を展開していくべきだったか。いや、下手に近づけば反撃は免れない。


「あのぅ……善大王さん、ですよね?」

「えっ、あっ……うん」


 俺は咄嗟に肯定してしまった。善大王が呑気に観光しているなど、知られていいことではない。


「よかった。あの、どこかでお話できませんか?」


 その幼女は、青い髪をしていた。本当に、青い髪。

 髪の色は血の濃さを現しているという。平民であれば青と言えるのかも微妙な色も混じっているが、貴族らはその色と断定できるだけ濃い。

 ただ、この子はその貴族らと比べても鮮やか。明確な青だ。

 長く綺麗な髪。サファイアのような瞳。背はそこまで高くない。

 着ている衣類などを見るに、貴族の娘あたりか……いや、このアホ毛。


「行きましょうか」


 街中を歩きながら、俺は適当に話をしていた。この子の正体を探る目的はあったが、個人的にはこのまま宿屋で済ませたい、という考えが大部分を占めている。


「善大王さんには、色々なことを伝えたいと思いまして」

「色々……はっ、俺が教えてあげようか?」

「えっ」


 柔らかい笑みを浮かべ、体へと手を伸ばそうとするが、その子の言葉を聞いて体が止まった。


「もう一回言ってくれ」

「巫女について、お教えします」


 俺と少女は適当なベンチに目をつけ、座りこんだ。歩きながらでは真剣な話はできない。


「えっと、自己紹介からですね。わたしはシアン、水の巫女です」

「水の……」

「天や光、風にはもう会っていますよね。それと同じです」


 その話を聞いて、俺は違和感を覚えた。


「ちょっと待ってくれ。なんでシアンはそれを知っているんだ?」

「フィアちゃんから聞いていますから。聞いた上で、教えてあげてほしいと頼まれたので」


 フィア、その名前が出たのは二回目だ。

 彼女の存在を知るはずもないティアが口に出した時、俺は何も言わなかった。負けたという感覚が強かったのもある。


「通信術式か?」


 比較的《魔技》に近い術に、通信術式というものがある。遠く離れた人物に対しても発動でき、会話などを行えることからかなり重宝されていた。


「まぁ、そうですかね」


 とすると、ほとんどの巫女が面識を持っている――ということか。なかなかに不思議な感じだ。


「本題に戻りますけど、わたし達巫女は人間を越えた力を持っています。それは……」

「ああ、実感済みだ」

「善大王さんがティアちゃんに負けたのも、仕方がありません。そういう意味でも、落ち込まないでください」


 そんなこと、二度も言われなくても分かっている。


「巫女ってのは、一体何なんだ」

「世界を管理する為に神から力を与えられた存在、ですかね。本当は《星》と言うんですけど、巫女の方が通じやすいですよね」

「神から……というと、俺と同じなのか」

「善大王さんのそれとは少し違いますね。皇は後天的に力を得ていますが、わたし達は生まれつきその力を持っています。だからこそ、自分の手足のように使えるんですよ」


 それで戦闘経験を上回ってくるなど、努力が馬鹿馬鹿しくなるな。

 いや、しかし……シアンという子、なかなかに可愛い。いや、王族なのだから当たり前か。

 今までずっと幼女との交わりを禁じてきた。相手は王族、手を出すべきではない、出すべきではないのだが。

 正直言って、俺は迷っていた。少しくらいはシアンと遊んでいってもいいのではないか、と。


「――でして、巫女は……あの、聞いてくれていますか?」

「あっ、ああ……うん」

「本当ですか?」


 明らかに疑われている。ここはどうにかして話を逸らさなければ。


「つんっ!」

「ひゃわぁぅ!」


 アホ毛が気になり、指で突っついてみたが、シアンは変な声を漏らした。

 もしかすると……。

 もう一度突っつくと、また声をあげた。


「あっ、あの……やめてください……」


 俺はすこし意地悪になっていた。シアンを苛めてみて、どうなるのかが見たくなる。

 どうにも、このアホ毛は尻尾や触覚のようなものらしく、感覚が通じているらしい。さらに言えば、敏感なようだ。


「やめて……くだひゃい……」


 テンションに任せてアホ毛を握った瞬間、シアンは腰を抜かしてしまった。


「あっ……ちょっとやりすぎた。ごめん」


 シアンは泣いていた。ただ、泣いているだけではない。


「あー、服屋にでもいこう。代えを用意するよ」

「……はい」


 シアンの手を握り、立ち上がらせようとした時、後方から何かが接近してきていることに気付いた。


「シアンちゃんに何しているのよぉおおおおおお」


 予期せぬドロップキックが炸裂し、俺は地面に叩きつけられた。


「うーん、いい蹴りだね」

「なに言っているのよ! この変態!」


 踏みつけられるが、悪い気はしなかった。

幼女の軽い体重で押されると、なんだかマッサージのような気がしてくる。


「なんなら、もっとしてもいいんだぜ?」

「げ……なによこいつ。シアンちゃん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「でも、おもらししちゃっているし……この男に何かされたんじゃないの?」


 俺は立ち上がり、蹴ってきた子をみた。

 短めの赤いツインテール。釣り目で高飛車に見えるが、歴とした幼女だ。

 これはこれでいいかもしれない。よし、シアンはやめてこの子とやろうか。


「やぁやぁ、君は何って名前なのかな? 俺は善大王って言うんだけど」

「善大……こいつが?」


 自分の名前が知られている、そう気付いた時点で彼女の頭を再度改めた。

 やはり、アホ毛が生えている。髪の赤さもかなり濃い――とすると、巫女か。


「善大王さん、この子は火の巫女のミネアちゃんです」

「だーろうと思ったよ。……っでも、それなら火の国にいるんじゃないのか?」

「あたしはシアンちゃんと遊ぶ為に来ているのよ! なにか文句ある?」


 かなりツンケンしている。いや、そういう幼女もたまには悪くないな。むしろ、そういう幼女を落すのはそそられる。


「ミネアちゃんか、よろしく」

「誰が名前を呼んでいいって言ったのよ。それに、ちゃんって何よ。子供扱いしないで!」

「はは、子供扱いなんてしていないよ。俺はどんな子でもきっちりレディ扱いするタイプだから――っと、とりあえず服屋にいかないかな?」


 ミネアは改めてシアンの姿を確認し、不服そうに頷いた。


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