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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
305/1603

22α

 ──二人の話題に出ていた者達は森の中で戦闘をしていた。

 敵が来るなどとは一切思っていなかった少女二人組は、予期せぬ襲撃に驚愕しながらも、適当に相手をしている。


「なんで私達襲われてるんだろー!」


 ティアは組織の者に武器で攻撃されながらも叫び、エルズに聞いていた。


「あの手紙に《魔導式》が刻まれていたみたい! おそらく、持っている人間の居場所を伝えるようなもの!」


 どうも白が送った手紙には、組織に敵対する者であることを判別する為のマーキングのようなもの、居場所を判断できるものの二つが刻まれていたらしい。

 敵と交戦し始めた時点で燃やされたが、白がこんな嫌がらせをする理由については、面識のあるエルズさえ理解していなかった。


「この人達は悪い人なのー?」

「私もよく知らないから何とも言えない!」


 蹴りや殴りなどの体技で敵を沈めていくティア。

 《魔導式》を展開し、敵を一人ずつ眠らせていくエルズ。

 大量の敵を相手にしながらも、全く不利だと感じさせない時点で二人がどれほど強いかが明らかとなっていた。


「あれを使ってよー!」

「それを使ったら気付かれるから無理なの!」


 数十人は居た組織の者達の八割程は、二人の猛攻により戦闘不能状態となっている。

 そこまでやられた時点で、本来は敗北を意識して逃亡しなければいけないのだが、この戦いではそういった普通の戦略などは通じないようだ。


「それに《魔導式》の封印だけでこっちは手いっぱい!」


 言われてみると、この場で術を使って戦闘している人間はエルズだけなのが分かる。

 どうやら彼女は敵に幻術をかけながら、同時に周囲の人間に術を使わせない為、《魔導式》の展開を防ぐ《魔技》を使っているようだ。


「ディードさんを助けに行けなくなっちゃうよー!」


 ティアは驚異的な跳躍力で組織の者の頭部よりも上に飛び上がり、空中回し蹴りを放つ。

 彼女の言葉により、ディードが今何をしているのか、という点について気になったエルズはその場で立ち止まり、集中力を切らさない程度で考えた。

 そして、白の仕込んだ二つの《魔導式》の意味も理解した。


「……この襲撃、もしかして白さんが仕込んだ陽動かもしれない」

「え? なんだって?」


 急がなければならないと思ったのか、ティアは宙を跳ねながら戦うという、おおよそ人間離れした動きによる高速戦闘を行っている。

 故に、エルズが大きな声で発していない言葉など、届いていなかったのだ。


「この襲撃も! 私達がするべき作戦なのかもしれないって!」


 大声で叫ばれたことで、ティアもエルズと同じく、白が行った策の意図を理解する。


「だからここは時間稼ぎをしながら──」

「全員をしばらく動けなくすればいいんだよねっ! よーっし、もっと飛ばすよー!」

「えっ、ティア違……」

「いっくよー!」


 エルズの制止は、ティアには一切届いていなかった。

 きっとティアは自分が決めた目的には真っ直ぐで、何の遠回りもしない最短距離の考えを優先してしまうのだろう。

 刹那、組織のメンバーは数人に増えたティアの攻撃を腹部に受け、吹き飛ばされていた。


「よっし! 最後の人達は結構危ないかもしれないけど、お片づけおーわりっ」


 今の攻撃、ティアは実際に分裂したわけではない。

 目に映る速度の範疇で最大限の速度を叩きだし、加速力を攻撃の瞬間のみ消し去ることで、死なない程度の強力な一撃を敵に叩きこんだのだ。

 その副産物として、止まった瞬間の姿が残り、残像が分身のようになっていた。


「相変わらずだけど……よくそれで体壊さないね」

「えへへ、すごいでしょ!」


 予想とは全く違う返答に頭を抱え、そして心配した。

 ただ、エルズは気を遣ってはいるが、ティアのことを疑っているわけではない。いやむしろ、崇拝しているのだ。

 完全無欠、絶対正義でありながら、実は欠け落ちている部分もある自分の親友のことを。


「早くディードさんと合流しよ?」

「そうだね……よし、行こう!」


 遥か先で戦っているはずのディードに合流すべく、エルズはティアの背にしがみつくと、発進を要求した。


「ティア、お願い!」

「じゃあそっこーで向かうよっ」


 エルズを背負ったまま数回スキップすると、ティアは空気を引き裂きながら高速移動を開始する。


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