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「光の皇、主の負けだ」
目を覚ました俺は、族長の第一声を聞いた。
「ごめんね、わたしの方が強かったみたいだね」
「なんであの一発を耐えられたんだ? いくら殺す気がなかったとはいえ、あれは動けなくなる攻撃だぞ」
立ち上がった時点でそもそもおかしいレベルだ。ただ、そこは《風の一族》だからと整合性が合ってしまった。
「うーんとね、まぁ色々と――じゃ駄目かな?」
「駄目だ」
「フィアちゃん達の言い方にすると、わたしも巫女だから、かな?」
巫女、という単語が出た時点で俺はどこか納得してしまった。
巫女は六属性確認されている。そのほとんどが王族であり、建国記の時代でもその存在は認知されていた。
力持つ巫女の影響で国が建てられている、と言っても過言ではない。だとするならば、残る風属性の巫女が居てもおかしくはない。
人智を越えた能力を持つ存在。俺は冒険者の中で言えば最上位、善大王という立場にもついていると考えると、それに劣る気はしなかった。
しかし、それは飽くまでも人間での物差し。戦っている最中に否が応にも知らしめられた。
ティアは《風の一族》が持っている身体的ポテンシャルを含め、地上の誰よりも強かった。そして、その強さが人間の上限を越えていることにも気付かされた。
俺の実力ではティアには勝てない……確実に。
「俺は帰ることにする」
「うん、じゃあ送るよ!」
ティアに連れられるまま、俺は外界へと降りていく。日を跨ぐことになったが、それでもティアは別段何も言わなかった。
ある時、ティアは雑談とは別の話をしてきた。
「善大王さんは強いよ。だから、落ち込まないでね」
「無理言うな、落ち込むに決まっているだろ?」
俺は冗談のように言う。当然、本気で落ち込んでいるが。
「諦めちゃった?」
「……今の俺じゃ、ティアには勝てない」
「何度でも遊びに来てくれていいからね? で、また挑んできてよ」
その言葉を聞き、俺は笑みで返した。
「ああ、またいつか来るよ」
俺の実力は既に頭打ちだ。これ以上強くなることはできない、それは自負している。
戦術でティアとの実力差を埋められるか……?
結論が出ないまま、俺はティアと別れた。
どうしたものか、これでは光の国に戻るに戻れない。新任だからと甘えたことを言う気にはならない上、惜しかったなどとも言えない。
俺は静かに深呼吸をし、方針を決めた。
馬車の調達が必要だ。とりあえずは水の国へと向おう――できるだけ、時間を掛けて光の国に戻ればいい。
かなりマイナスな思考だったが、今はその僅かな逃避に縋らなければならない。本当に、笑える。
そうして、俺は歩きだした。未来ではない方向へと。