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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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 俺は何度も瞬きをし、停止した馬車から降りた。

 善大王になるまでに鍛えたことの一つは、馬車が停止した瞬間に目覚めるという技術だ。

 うっかり寝過ごして数時間待機をすることになれば、周囲に迷惑が掛かってしまう。

 馬に装着された馬具を数回叩いた後、光の文字――《魔導式》を刻みこみ、発進命令を出した。

 光の国の始祖、ライトロード王が作ったという技術は大昔から存在しているが、一般流通しているような品ではない。

 王族や一部貴族が私用で動く時に御者を必要としないので重宝している。本来ならば本国にまで送り返すところだが、今回の会談は数日に渡って行う予定もない。

 事前にノーブルが言っていた座標には、きっと馬を預けられるような場所があるのだろう。少なくとも、そこは俺が触れるべきところではない。

 軽く伸びをしてから服装を整え、城門へと向っていく。


「善大王だ。話は」

「はい、聞いております。どうぞ」


 番兵は門を開いた後、数人の兵をこちらに寄こし、護衛とした。俺の実力を考えれば足手まといにしかならなそうだが、こんな平和な場所で襲われることはないだろう。

 天の国、その首都であるビフレスト。ミスティルフォードで最も古くから存在する都市。

 選ばれた人間しか獲得できない天属性使いが集まっているだけに、外観はとても芸術的だった。

 古いながらも堅牢な作りの家、各所に見受けられる術を用いた装置類。案内板から井戸、店先のライトアップも全て術が使われている。


「初めて来るが……光の国とは違うな」

「そうでしょう。会談終了後は、ぜひとも楽しんでいってください」

「おう、考えておく」


 護衛兵に適当な相槌を打ち、城にまで到着した。

 そこで護衛兵は敬礼を残して去っていった。場所については口頭で聞いていたので、分からないというわけでもない。

 城下町もそうだが、城の中は一層豪華だ。これに関しては光の国でも言えるが、こちらは時代に適応して変化していっているという感じだ。

 古臭いまま、ずっと当時の姿を維持している光の国とは違う。いや、光の国のそれが悪い、というわけではないのだが。

 城下町方面の壁が一面硝子張りという、変わった趣の長い廊下に差し掛かり、そろそろで謁見の間に到着する――そんな時である。

 一人の少女が廊下で立ち止り、外の風景を見ていた。

 王室で使われるような金糸を思わせる、長い金色の髪。大空を封じ込めた宝石を想起させる、空色の瞳。子供とは思えない程に整った顔つき。

 落ちついた雰囲気の水色ワンピースを着ており、白いカーディガンを羽織っていた。足には白いタイツを履き、靴は黒いストラップシュースと、お嬢様のような格好をしている。

 それだけであれば、ただ可愛い――綺麗な少女という評価で終わるのだが、彼女はそれらの要素を砕き散らすかのように、物憂げな雰囲気を纏っていた。

 じっとりとした目は虚ろで光が宿っておらず、何かに絶望しているようにも見えた。

 貴族の娘だろうか? それにしては、城の奥にまで来ているのが気になる。

 俺は好奇心から少女に近づき、声を掛けてみた。


「やぁ、どうしたんだい?」

「……あなたは! あの時の」

「前に会ったことある? ……ん、この声」

 不意に記憶の中を過る影が映った。「それはそうと、何をしているんだい?」

「……外を見ているの」

「へぇ……じゃあ、俺も見てみようかな」


 僅かに屈みこみ、少女の隣に並んだ途端、嫌がるように少し距離を取ってきた。


「綺麗な城下町だ」

「私は、嫌い」

「どうして?」

「……あんなの、ただ空虚なだけ。掴めない世界なんて、意味がないから」


 その言葉だけである程度の事情を察した。この子はきっと、城の外から出られないのだろう。


「病気かい?」

「そう、かもね」


 落ち込む少女を見て、俺は何かをしてやりたいと思った。

 何か……何か。よし、ここは俺の気晴らしを兼ねて――

 尻を触ろうとした瞬間、少女は跳ね退き、俺の手をはたいた。


「触らないで!」

「あっ、ごめんごめん。そういえば、自己紹介もまだだったね。俺は善大王」

「善大っ――御無礼をして、申し訳ありませんでした」


 善大王という名前を聞いた途端、少女は畏まったように頭を下げてきた。

 貴族の娘であれば、その名が指す意味くらいは分かっているんだろう。悪いことをしたかもしれない。


「いやいや、悪いのは俺の方だからさ。それで、君は?」

「……フィア、です」

「へぇ、フィアちゃん。可愛い名前だね」


 フィアちゃん、アルマちゃんが言っていた子だ。

 しかし、こういうと大体の女の子は頬を赤く染めるんだが、この子はそうではないらしい。


「あなたの名前、教えて」

「善大王……だけど」

「やっぱり、そうなのね。くだらないことをお聞きしてしまい――」

「謝らなくていいからさ。……っと、そろそろ国王様のところに行かないとな、待たせたら怒られちゃうし」


 軽く会釈をし、謁見の前へと歩みを進めた。

 あの少女、何を悩んでいたんだろうか。調べようとすれば調べられたが、あの子は心を閉ざして、全ての声を聞こえないようにしている風に見えた。

 ……気になる、な。


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