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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
296/1603

16

「(白……早くしろ)」


 彼の祈りが通じるはずもなく、残酷な定めからは逃れることは出来なかった。既に二人は炭鉱入口の傍まで来ている。

 土壇場で作戦を追加するということはなかなかに難しい。その追加作戦を成功させるとなれば、さらに困難となる。

 だが、彼は足元に落ちていた大きめの石を見つけると、咄嗟にそれを掴んだ。


「(悪足掻き程度だが……成功してくれ)」


 手に持っていた大きめの石を向かいにある草むらに投げ込むと、先程まで隠れていた木の裏へと戻る。


「おい! 大丈夫か?」


 一人は倒れた組員の傍へと駆け寄り、もう一人はディードが石を投げた方へと近づいて行った。


「(向こうに白が残っていればどうにかなるはず……そしてわたしはもう一人を)」


 石の音を追っていった男の姿が確認できなくなった瞬間、再度炭鉱前の広場へと躍り出る。

 倒れた者の傍に寄った組員は油断しきってか、周囲の様子などを一切確認していなかった。

 もしも、ディードが術を使うことができれば格好の的だったのだろう。……彼はそんなことを初めから考慮に入れていないようなのだが。

 隙だらけの人間に対してならば、術など使わずとも容易に突破できるらしく、その一人をあっさり気絶させた。

 すぐさま、先程投石した草むらの方を注視する。


「(白は二人を倒せたのだろうか)」


 敵を殲滅出来たのであれば、炭鉱内部に入ってから情報を収集することがセオリーだ。

 ただ、白が何一つ動きを見せないというのが、ディードにとっては不可解らしい。

 迂闊だとはいえ、彼の安否が気になったディードは白が居たはずの場所へと突入した。


「おや、どうしました?」

「生きて……いたのか」

「当たり前です」


 白が無事だったことに一安心したディードだったのだが、それよりも気になることがあったようで、すぐに気持ちを切り替える。


「何故、援護に来なかった?」

「あなたの実力を見る為……ですかね。背中を任せられるだけの人間以外は、連れて行っても足枷になるだけですし」


 確かに正論ではあるのだが、作戦の真っ最中──それも失敗が許さないこの場においてはあまりにも危険な思想でしかない。もちろん、これにはディードも反感を抱いた。


「あなたの流儀に従って、こちらも二人を気絶で済ませていたので許して下さいよ」


 不満を覚えているディードの不機嫌を取り除く為か、白は少し離れた地面を指差す。

 そこには白が担当することになった者達が無傷で倒れていた。しかし、周囲に残留魔力は感じられない、それは白が体技でこの二人を沈めたことを表している。


「ならいい。では炭鉱に侵入するぞ」

「そうしたいところですが……どうも私が読み違いをしていたようです」

「読み違い?」


 それまで余裕を持った表情をしていた白は、突然顔を顰めると、数歩後ろに下がった。


「トニーさん、そこに居ますよね?」

「いつもの予感か?」 

「そうですね。トニーさんが不意打ちでそこの彼を殺そうとしていたことも」


 そこまで言い切った所で、木の裏に隠れていたトニーが姿を現す。


「黒様が途中で帰ったのは、君の差し金のようだな」

「トニーさんが居てくれたので、予想通りあっさり帰ってくれましたよ。ボスが呼んでいると言っただけで」


 ボス、という単語を聞いた瞬間、ディードは白が組織の一員であるということを確信した。

だが、どうして組織側でありながら自分に協力したのか、何故組織の情報を探っていたのか、その両方が分かったわけではなかった。

白に問い詰めずにはいられなかったのだろう、彼の胸倉を掴みかかる。


「白、お前はまさか──」


 問いの最中にもかかわらず、白は彼の手を払い除けると、トニーと向かい合った。


「組織を探っている者を油断させる為、仲間の真似をしているようだな。黒様が見ていればこのような回りくどい策は許さなかっただろう」

「はい、黒が居たら無駄に怒られてしまいますからね」

「……っ! 初めて会ったあの時から感じていたが、やはり敵だったか」


 ディードは後悔していた。そもそも彼が怪しいということは分かっていたのだ。

 それだけではなく、ライムも白は嘘をつく人間の雰囲気を持っている、とも言っている。

 ここまで分かっていながら、彼を組織のメンバーと見破れなかったことを──怪しいと思いながらも、最終的に信じてしまったことを──悔いずには居られなかったのだ。

敵を殲滅したかと思われた状況から一転、白の裏切りにより二対一という、圧倒的不利に陥ってしまった。

 白の実力は彼がよく知っている。そしてトニーも魔力の察知を行わせない程の使い手、火を見るよりも明らかな劣勢が、彼の目の前には広がっていた。

敗北は免れない。そう思われた時、事態はさらに一転した。

 白の首元には、藍色に輝く刃が突きつけられていた。突きつけていた相手はディード──ではなくトニーである。


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