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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
294/1603

14

「軍関係者が数人いるようですわね」

「小隊長が一名、他は平隊員か?」


 《ヴィントマイン》に到着したディードとライムは物影に隠れ、軍の取引現場を見ていた。

 この場の発見に至るまでも苦労は多く、闇の巫女として冴え渡る魔力察知能力により、反応の多い地点をいくつも回ってようやく到達した。

 交換場所として選ばれていた所は、既に使われていない炭鉱跡地だということも、道中の情報収集で得た知識である。

 その情報によると、この炭鉱自体は数十年前には既に枯れていたという。


「それにしても、何故このような所で取引が?」

「長年放置されていれば、当時の採掘道具などの劣化で危険な場所になることは明白ですわ。そうなれば、言わずとも誰も来ませんわ……人の近寄らない炭鉱、根城にするにしても取引場にするにしても、そこまで悪いとは思いませんが?」

「軍が秘匿していればさらに……か」


 疑問を素早く解決すると、二人は軍と取引を行う組織の使者が現れるのを待っていた。

 しばらく様子を見ていると、炭鉱の中から数人の男達が現れ、小隊長の男と何かを話し始める。


「何を話していると思う?」

「まだ分かりませんわね……何かが行われるまで待ちますの?」

「白の出方を窺うべきかもしれない。ここで奴が現れれば、嘘はついていなかったということになる」

「ならば問題はありませんね。私としては来てほしくなかったのですが」

「ッ!」


 振り返った先には、白が立っていた。

 この地に彼が現れることは必然だったのだが、彼はまだ白から大事なことを聞いていない。

 作戦、現場の告知は警告や協力の要請として捉えることが可能だ。利用している可能性も見て取れる。

 しかし……。


「もう一度聞く、どうしてわたしの名を知っていた? お前は組織の一員なのか?」

「質問は一つにしてほしい所ですが……私は組織の一員ではありません。そして、知っていたのは聞いていたからですよ、ムーアさんに」

「……師匠を知っているのか? いや、わたしの存在を師匠が言う……のか?」

「私は夢幻王様の側近だからですよ。城下町で悪戯をする度、よく怒られたものですよ」


 ディードは驚きを隠さずには居られなかった。

 己が目的を同じくする者が自分の元へと集まり、その全ての繋がりとして師匠が居たことに。ありえない確率の奇跡を引き当てたことに。


「優秀な弟子が居ると自慢していましたよ」

「師匠がそんなことを……」


 会話の最中、ずっと見つめられている──正しくは、睨まれている──ことには気付いており、ディードの傍に居るライムの方を向いて笑顔のままで話しだした。


「姫様の遊びは、もう終わりですか?」

「わたくしがただの遊びで、このようなことに首を突っ込むとお思いで?」

「そういったことは……ありえませんか。では、姫様の力を借りたいところですが」

「わたくしの主が力を使うのを許してくれませんわ」

「……ですか。それも分かっていますよ。姫様はここに隠れていてください」


 白とライムがよく分からない話を繰り広げていることに不満を覚え、ディードは二人の間に割って入る。


「待て、どういうことだ?」

「……あなたにも付き合って貰いますよ。一応、危険だとは警告しておきましたからね」


 事情が一切説明されないことを怪しく思いながらも、一人で攻め入るよりはよっぽど効率的だと判断し、ディードは渋々頷いた。

 作戦実行の為に必要な準備を済ましていくかのように、白はライムの方を向き直る。


「姫様、あの場に居る軍人に幻術をかけて欲しいのですが」

「民を守る為ということですの? ……いいでしょう、それならば主にも申し訳が立ちますわ」


 作戦に必要な要素が揃ったと確信し、白はディードの方を向くと、作戦の内容を告げた。


「うっすら感じる魔力から、敵は四人程だと思われます」

「外に出てきている数は四人……隠れている者はいないと?」

「魔力の操作を極めている人間が居ないという前提では……そうですね」

「どうやって攻める?」

「……四人の中で、集団から遠い順番に殺していきましょう。最後まで気付かれないということはないでしょうが、一人か二人殺せたら十分かと思われ──」


 一切表情を変えることもなく、白は殺すという言葉を発する。

 次の瞬間、ディードの拳は白の左頬へと放たれた。音は静かで、距離もそれなりにあった為に取引中の組織に気付かれることはなかったが、迂闊な行動ではある。


「殺すなんてやり方は間違っている」

「甘いですね……相手はこの国を蝕もうとしている者達ですよ?」

「それでもこの国の人間だ。すぐに殺してそれで終わり、という考えの方がよっぽど甘い」


 死による解決はつまり、安易な手段での問題解消を恒久的に続けることに等しいのだ。

 集団の運営において、その方法を用いることは愚鈍でしかない。理想論にしても、机上の空論にしても、可能であれば生存させなければならないのだ。

 目先ではなく、後に手に入れる国のことを考えているディードは、現状を打開せんとする白の意見と相違している。


「……あなたは不真面目な弟子だった、ということですね」

「どうして師匠の話を出す」

「あの人は、この国でも屈指の暗殺者だったんですよ。己の意志を保ち、その上で殺すという選択を選ぶ覚悟を、あなたは学べていない」


 ディードは、奇妙な感覚を覚えた。

 確かに、彼はムーアが暗殺を行っていたことは認知している。ただ、本人はその技術を一度も見せず、教えようともしなかった。


「(師匠がわたしに何を教えたのかを知らないのか? それとも……)」


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