11γ
──闇の国の首都の郊外。
この国の人間が眠る場所が、そこにはあった。
「…………」
数えるのが億劫になるほどに存在する墓石の中、幾十の墓石だけは他の物よりも豪華で、場所も少し離されていた。
その特別な墓石な中でも、特に新しい物の前に、一人の男が立っている。
少し前、神器を盗み出す為に光の国にやってきた、組織のメンバー。
黒い髪に灰色の毛が混じっている男。吸血鬼のトニーだ。
彼はその手に携えた藍色の花束を墓に添えると、誰もいないにもかかわらず、話を始める。
「もうそろそろは始まる……君の娘は国を抜けてしまったが、その力が軍に利用されることはないだろう。本来ならば、私があの子を引き取るべきだったのだが……すまない」
どうやらここに眠る人物は、彼の知り合いのようだ。娘の話が出ていることから、よほど親しい者だったのだろう。
「戦争中に君の娘が見つかり次第、私が引き取るつもりだ。……そろそろ私は行く。戦争が終わったらまた来る」
そう言い終わると、先程から聞こえていた耳障りな音──通信術式によるシグナル──を止める為、通信を開始した。
『トニー、今は暇か?』
「現在は、友の墓に来ています」
トニーは墓から離れながら、少なからず不満といった様子で返す。
『……そりゃすまねぇな。だがよぉ、トニーには今から向かってほしい所がある……それも丁度その近くだ』
トニーは立ち止ると、周囲を見回した。
「場所は何処ですか?」
『《ヴィントマイン》、組織のアジトがある場所だ。いつも通り、あいつからのご指名と来てやがる』
あいつ、という言葉を聞いた途端、トニーは納得したような動作をし、《ヴィントマイン》のある方角へと歩き出す。
どうやら通信相手とトニーの間において、あいつと呼ばれる人物は一致しているようだ。それほどに、組織内で有名な人物ということなのだろうか。
「……ならば行かなければなりませんね」
『急な命令だが、戦争を始める為には欠かせねぇ仕事だ。ここを邪魔されると面倒なことになる。今回はオレも残る、さっさと合流しろ』
「──黒様は、どう思っているのですか?」
『何のことだよ?』
黒は本当に意味で理解していない訳ではなかった。
それでも、問いが組織のメンバーであれば聞いてならないことだと察し、威圧をかけている。
「戦争に勝ち目があるかどうかと──」
『黙れ……オレはトニーを処分はしたくはねぇ』
「分かりました」
二人は他の要因などを無視しても、組織の一員なのだ。その内部の掟がある限り、自由に話せない。
それは両者とも分かってはいるが、トニーに悪いという気持ちは多少なりとも存在したのだろう──黒はそこで通信を切らずに、続けた。
『すまねぇな。この案件が片付いたら酒でも飲みにいくか?』
「そうですね……」
トニーは通信術式を切ると、《ヴィントマイン》へと走りだす。急行しろという命令はなかったのだが、そうせずには居られなかったのだ。




