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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
290/1603

11γ

 ──闇の国の首都マナグライドの郊外。


 この国の人間が眠る場所が、そこにはあった。


「…………」


 数えるのが億劫になるほどに存在する墓石の中、幾十の墓石だけは他の物よりも豪華で、場所も少し離されていた。

 その特別な墓石な中でも、特に新しい物の前に、一人の男が立っている。

 少し前、神器を盗み出す為に光の国にやってきた、組織のメンバー。

 黒い髪に灰色の毛が混じっている男。吸血鬼のトニーだ。

 彼はその手に携えた藍色の花束を墓に添えると、誰もいないにもかかわらず、話を始める。


「もうそろそろは始まる……君の娘は国を抜けてしまったが、その力が軍に利用されることはないだろう。本来ならば、私があの子を引き取るべきだったのだが……すまない」


 どうやらここに眠る人物は、彼の知り合いのようだ。娘の話が出ていることから、よほど親しい者だったのだろう。


「戦争中に君の娘が見つかり次第、私が引き取るつもりだ。……そろそろ私は行く。戦争が終わったらまた来る」


 そう言い終わると、先程から聞こえていた耳障りな音──通信術式によるシグナル──を止める為、通信を開始した。


『トニー、今は暇か?』

「現在は、友の墓に来ています」


 トニーは墓から離れながら、少なからず不満といった様子で返す。


『……そりゃすまねぇな。だがよぉ、トニーには今から向かってほしい所がある……それも丁度その近くだ』


 トニーは立ち止ると、周囲を見回した。


「場所は何処ですか?」

『《ヴィントマイン》、組織のアジトがある場所だ。いつも通り、あいつからのご指名と来てやがる』


 あいつ、という言葉を聞いた途端、トニーは納得したような動作をし、《ヴィントマイン》のある方角へと歩き出す。

 どうやら通信相手とトニーの間において、あいつと呼ばれる人物は一致しているようだ。それほどに、組織内で有名な人物ということなのだろうか。


「……ならば行かなければなりませんね」

『急な命令だが、戦争を始める為には欠かせねぇ仕事だ。ここを邪魔されると面倒なことになる。今回はオレも残る、さっさと合流しろ』

「──黒様は、どう思っているのですか?」

『何のことだよ?』


 黒は本当に意味で理解していない訳ではなかった。

 それでも、問いが組織のメンバーであれば聞いてならないことだと察し、威圧をかけている。


「戦争に勝ち目があるかどうかと──」

『黙れ……オレはトニーを処分はしたくはねぇ』

「分かりました」


 二人は他の要因などを無視しても、組織の一員なのだ。その内部の掟がある限り、自由に話せない。

 それは両者とも分かってはいるが、トニーに悪いという気持ちは多少なりとも存在したのだろう──黒はそこで通信を切らずに、続けた。


『すまねぇな。この案件が片付いたら酒でも飲みにいくか?』

「そうですね……」


 トニーは通信術式を切ると、《ヴィントマイン》へと走りだす。急行しろという命令はなかったのだが、そうせずには居られなかったのだ。


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