11β
暗い洞窟の中、黒い髪の男は通信術式を前に話していた。
「兵装の受け渡しに《ヴィントマイン》を選びやがったのは何でだ?」
『……ガ……揉……消……楽……』
通信術式の向こうから聞こえる声は途切れ途切れで、とてもではないが意味を認識することができるような代物ではない。
「聞こえねぇぞ、どうなってやがる?」
『……デ……地下だから……か?』
「通信に地下かどうかは関係ねぇよ。てめぇが何かをしているんじゃねえのか」
通信術式の通信において、場所などは大して影響を及ぼすことはない。
距離にしてもそれは同じで、世界中のどこからでも音声での通信を行うことができるのだ。
通信術式の理論については明らかにされていないのだが、通信相手に幻覚を見せているという説が最も有名なことから、大抵の人間は彼のような認識を持っている。
『……すみま……《ヴィントマイン》での受け渡しならばあの人が行け……呼……トニー……を』
通信相手がそう言い終わった瞬間、彼の目の前に展開されていた通信術式は砕け散った。
「(あいつ何かを企んでやがるのか? ……ちっ、だがあいつの言うことだ、トニーを呼んでおく方が得策か)」
彼はどうも通信相手を信用しているようで、トニーと呼ばれる人物を呼びだすことを決定していた。
直感のようなもの、というよりも通信相手の癖を良く知っているのだろう。
そこから彼が推理した結果、《ヴィントマイン》では何かが起きる可能性があるが、トニーが近くに居ればそれを未然に防げる。
何より《ヴィントマイン》以外で行った場合は、それ以上に面倒なことになる、という所まで考えが至っていた。
「(軍との取引の時に不備が出れば、揉み消しが面倒になるかもしれねぇか……親父に無駄な苦労をかけないように俺が出るべきか?)」
黒髪の男は振り返り、洞窟の中に無数置かれている武具などを見た後、通信術式を展開する。




