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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
286/1603

8

 オーナーは利口らしく、抵抗する意志がないことを示すかのように、自ら両手を地面に付けた。


「何が目的だ?」

「この商会……いや、組織は軍に何をしようとしている」

「軍? 何のことだかさっぱりだ」

「嘘をついても為にはならないと思うが」


 トントン、とナイフの刃を首筋に軽く当てて威圧をかける。


「ほ、本当だ。私は軍とは関与してはいない!」

「……ならば質問を変えよう。この国で軍の方針すら変える程の、圧倒的な影響力を持つ組織はあるか?」

「そ、そんなものは知らない」


 気乗りしないディードだったのだが、多くのリスクを支払いこの場に訪れた以上、何の情報もなしに帰ることできない。

 仕方あるまい、と自我を押さえつけ、彼が己の師匠より教わった方法で会話を続行させた。


「よし分かった。ならば貴様を殺した後に資料を見させてもらおう」

「ひっ……」


 首筋に近づけていたナイフを一度首より離すと、喉元目掛けて刺突を放つ。


「ま、待ってくれ!」


 空を裂く程の勢いだったナイフは首元で制止し、入れ替わるようにディードの顔が迫った。


「よし、言ってくれるのだな」

「あ、あぁもちろん言う。……我が商会の同盟、そして親組織のようなものがこの国にはある」

「同盟? 親組織? 詳しく話してもらおうか」

「い、言うからそのナイフを退けてくれ」


 当たり前とも思える提案に対し、ディードはナイフを一度見ると、刃に光を写す。


「そういう提案をするなら、もっと情報を出してからだ」

「分かった、同盟から言おう。我が商会は、この闇の国にある大きな組織と同盟を結んでいる。組織が巨大であれば部門は問わず、術の研究組織、薬物合成組織、人体改造組織、非合法なものは数えきれないが、普通の組織ですらこの同盟に参加している」

「軍も……その一つということか?」

「そ、そりゃ知らねぇな。おっと、これは本当だ」

「……ではもう一つの方を教えろ」

「そう焦るな、今すぐ言う。親組織というのは、その同盟全体を統括している組織……詳しくは知らないが、全世界にも影響力を持っているという話だ」

「その組織の名は?」

「その前にこのナイフを退かしてくれ。俺が喋ったらすぐ殺す、なんてこともありえるだろう?」


 首に突きつけていたナイフを遠くに投げると、話すように促がした。

 元々、彼は情報を聞いたとしても殺す気はなかったのだが、人間を納得させるには過剰とも言える程のパフォーマンスが必要だと知っていたのだ。

 そして、脅しという行為を彼が好んでいなかったこともその一因で間違いないだろう。


「一つの国家に、もしくはそれ以上の力を持つ組織、その組織名は《イーヴィルエンター》だ」

「《イーヴィルエンター》だと? そんな存在は知らない」

「そりゃ当り前だ、この組織はヒエラルキーの上辺に居る人間のみが知っている。よほどの権力を持つ人間以外は知りえ──」

 そこで言葉が停止した。

 停止の後、それまで話していたはずのオーナーは白目を剥きながら暴れ出す。


「や、止めろ! 止めてくれ!」


 突如として起きた豹変に、直感的な危機感を覚えたディードはライムの手を握って距離を取った。


「あぁああああ! 来るなぁああ!」


 どうやら彼には見えない何かが見えているのだろう。その状態は麻薬を使用した者と同一、しかし、この様子だと意図的に何者かが幻術を使ったかのようにも見える。


「術者が近くに居るのか?」


 暴れまわるオーナーの攻撃が命中しないように細心の注意を払いながら、ディードは窓の外、扉の外などを見て回った。

 だが、どこにも術者と思われる姿はない。


「い、今までどれだけの資金提供をしてきたと思っているんだ! 俺が居なくなったら──」


 言葉は途中で途切れた。今度は彼の意識によって──幻術によっての停止ではない。

 肉体的停止、つまり死によるものだった。

 生命の灯が消えた、と感じたディードはその場に倒れ込むオーナーの心臓に手を当てる。


「幻術による死、おそらく何かしらの臓器を強制的に停止させられたか」


 死を確認した後、ディードは命なき抜け殻となったモノの目を閉じさせると、部屋に置かれていた布を彼の顔に被せた。


「……助けられなくて、すまなかった」

「騒ぎが起きる前に早く脱出しますわよ」

「……分かった」


 《イーヴィルエンター》、おそらくこの件の黒幕と思われる組織に辿りついたディード。

 しかし、ここで知ることが出来たのは組織の名前と、組織が巨大であるということ程度だった。

 商会本部より平静を装い脱出している最中も、彼は思考を巡らせる。一体この後、どうすればいいのだろうか、と。


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