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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
285/1603

7

 長らく歩いたディードとライムは遂に、《モノヴァイ商会》の本部付近に到着した。

 さすがは国内最大規模の商会というだけはあり、本部の入り口には見張りが二人も立っている。

 遠目にも姿が見られてしまえば警戒されると考え、木の陰から本部の様子を窺っていた。


「わたくしは大丈夫ですが、あなたはこのような所に侵入できますの?」

「どうしてそのようなことを聞く?」

「わたくしの記憶によれば、あなたは小隊長ですらないはず……実力の不備が気になりまして」


 彼の経歴をそのまま読んでしまえば確かにそう思っても仕方がない。

 しかし、彼が未だに平隊員で燻っている理由を聞けば、納得がいくのだ。

 結局のところ、彼は貴族ではない。そして。まだ軍に所属してから時が経っていないからだ。


「わたしが軍との間に、何のコネクションも持たずに入ったということは知っているか?」

「……詳細などは全く読んでいませんから、知りませんでしたわ」

「なら今言った通り、そういうことだ」


 彼は今から約四年前に軍に所属した。

 特別入隊という大抵の者が通る道を使わず、普通入隊という身分の低い者や軍との関係がない者が使う方法によって。

 通常入隊と言いながら、その方法での入隊者という者は数える程しかいない。それ故か、昇格などは遅いが、実力に関しては折紙付きといっても過言ではないという。


「わたしは多くの者に見下されることはあっても、劣っていたとは一度たりとも思っていない」

「なら構いませんわ。しっかりわたくしを守りながら、無事に任務を完遂させてくださいまし」


 ライムからしてみれば、皮肉を籠めて言った言葉だったのだが、ディードは強く頷いた。


「ライムは後続から続け、入口はわたしが開く」

「お手並み拝見ですわね」


 ディードは軽く頷くと、二人の見張りの視点が逸れるのを待つ。

 そして僅かに生まれた瞬間、走り出した。

 足音も立てず、凄まじい速度で迫ってくる存在に気付いた時、既に槍の腹が叩きつけられていた。

 片方の男は咄嗟に反撃に移ろうとするが、槍を地面に落として両手をフリーにしたディードは、間髪いれずに掌底を放つ。

 大義の為とはいえ、騎士道に反した不意打ちなど、彼の良しとするところではなかった。

 そしてなにより、自国民を力で屈服させることになったことが、心地よくない感覚を彼に残す。

 ただ、ずっと黙っているはずもなく、ライムに合図を送った時点で作業に取り掛かった。

 倒れた見張りの一人から服をはぎ取ると、自身でその服を纏う。

 当たり前だが、二人の見張りをそのままにしておくわけもなく、残った一人の方の服で縛りつけ、念には念と術による拘束まで行った。


「意外とやりますわね」

「まぁこの程度は」


 そう言うと、彼は腰に付けていた袋よりロープを出し、ライムの手を縛りつける。


「どういうつもりでして?」

「君を内部に連れて行く為だ」


 ディードはロープを入れていた袋を破ると、バンダナを巻くかのように彼女の頭に装備させた。


「顔が割れない方がいいだろう?」

「そうですわね」


 ディードは扉を開くと、本部へと堂々と入っていった。

 扉を開けて入ってきた彼があまりに堂々だった為か、内部に居た者達も一度見ただけで、それ以降は気にする様子もなくなった。

 入り口の見張りがいるからには、ここに来ている人間に怪しい者がいるはずもない、そう考えているのだろう。

 本来ならば情報収集をするのが定石だが、ディードはあえて当然という選択肢を捨て、手っ取り早い選択をする。

 思考を巡らせてすぐ、歩いている事務員のような女性に目を付けると、声をかけた。


「すまない、少し良いか?」

「はい、なんでしょうか?」


 事務的な会話ながらも、どうにか怪しまれることもなく会話は開始される。


「わたしは最近ここの見張りに付いたばかりなのだが、オーナーはどこの部屋にいるのだろうか?」

「ご用件を一応お聞きしたいのですが……」


 いくら見張りになったとはいえ、所詮雇われの存在。安易にオーナーの居場所をいうことはできないのだろう。


「つい先刻、この娘を捕えたのだ。どうするべきか、指示を仰ぎたい。できればオーナーと直接で行いたい……そうしなければ追加報酬などの要求も出来ず、損することもあると聞く」


 多少納得するには程遠い理由だったのだが、用件が用件とあって、彼女としても教えない訳にはいかなくなったようだ。


「最上階です。部屋は一つしかないので間違えないと思います」

「……そうか、感謝する」


 軽く頭を下げると、ディードはその場を後にする。


「改めて聞きますけど、本当に突入しますの?」

「危険かもしれないが、長居することや、変に嗅ぎまわって怪しまれるよりは成功率が高いhず」


 そう、情報収集は定石ではあるが、侵入中であれば話は別。

 行う毎に、気付かれるかもしれないという状態で騙しきらなければならず、それでも正解が得られるとは限らない。

 さらに、話す度に証拠が増えていくのだ。足がついてしまえば、今回の作戦は遂行できなくなる。

 そういう考えで、ディードは一見考えなしにも見えるような、直接的な速攻を仕掛けたのだとライムは悟った。

 そして、部屋の前に到着したディードは一呼吸のみで覚悟を決めると、軽くノックをし、扉を開ける。


「失礼します、外部からの侵入者を捕えました」

「侵入者……そこの子供か?」


 茶色の髭を蓄えた小太りの男性、頭に毛がないことなどが印象的な彼こそが、この商会のオーナー。


「はい。わたしが入るなと警告したのにもかかわらずに入ろうとしてきたので」

「なるほど……それで、何故ここに連れてきた」

「侵入者を直接お目に入れたかったので。追加報酬などはいただけませんか?」

「…………よかろう。その侵入者は子供のようだから、奴隷なりで売りつけることは可能だろうからな」


 接近のチャンスは今この瞬間、とばかりにディードはライムを無理やり押しながらオーナーの傍に近づいて行った。


「おいくら程頂けるのでしょうか?」

「顔を見るまでは分からないな。上玉だった場合は、それなりの金を支払ってやろう」


 そう言って、オーナーはライムの顔に巻き付けられていた布を取ろうとした。

 そしてその隙、しゃがみ込むことにより瞬間的な移動などが封じられたこの時をディードは逃さない。


「動くな」


 ライムに迫っていたオーナーに蹴りを浴びせて、倒れた瞬間に短いナイフを突き付けた。


「な、何をする!」

「大きな声を出すな……わたしとしても穏やかに済ませたい」


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