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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
280/1603

2

「第三部隊のディードだ。カッサード部隊長に会わせてほしい」

「ディード? 知らんなァ。見る限り、有名な使い手でもなさそうだ……それに、貴族の関係者でもなさそうだしなァ」傲慢そうな口ぶりで言う。


 闇の国が戦争を始めようとしているのであれば、その真実が集まっているのは国土防衛部隊である、第一部隊だ。

 そう考えたディードは素直で真正面に、第一部隊詰め所の部隊長室前に来ている。結果は、今の通りなのだが。


「照会してもらえば分かる」

「俺達も暇じゃあない、そんなことを調べるだけ時間の無駄だ」


 いくら同じ軍とはいえ、部隊が違うだけで扱いは目に見えて違う。

 さらにいえば、ディードは完全なまでの一兵卒。名が知られていない上に、軍に影響力を持つ知り合いも、親もいない。

 国の一大事であろうとも、それでは意見を通すことすらできないのだ。

 もちろん、それは彼も承知の上だった。


 「……見張りの邪魔をしてすまなかった。あまり気を張りつめすぎずに頑張ってくれ」

「何を偉そうなこといってるのだ? そう言うことは偉くなってから言うもんだ」


 言い返そうともしたディードだったのだが、自分を制すると、頭を下げてその場を去った。

 いくら見張りとはいえ、軍幹部の部屋を見張っている者だ。第一部隊内でも確固たる信頼を得た──もしくは軍贔屓の貴族か──隊員だろう。

 階級上は差がなくとも、実質的権力はあちらが圧倒的に上。

 そんな人間に逆らえば、面倒事が待っている。だからこそ、彼は頭を下げた。下げたくもない頭を。


 この時代、こうした冷静な判断を下せる者はそう多くはない。

 彼が平民であれば、暴れた後のことを考えずに暴れるだろう。

 もしも貴族であれば──その場合は問題が発生しないが──、プライドが邪魔をして頭を下げず、余計な深手を負っていた。

 ある意味でいうと、彼は貴族でも平民でもないが、学はある。

 学問を探求しようとする機関は、光の国にしか存在していないのだ。もちろん、学ぶことはどこの国でもできるが、それを進んでしようとする者は多くない。

 それもまた、彼が軍に所属できた理由といえよう。

 ……だが、ただ理性的というだけではない。この選択の根には、彼の在り様が示されているのだ。


「(ここで余計な時間を取られていれば、大義を果たすことすらできない)」


 彼は決して、己の誇りを軽視してはいない。それでも、民を思えばこそ、重きを置いている自尊心すらも投げ捨てる覚悟を持っていた。


「(いつか見返してやる。だが今は耐えるときだ……)」


 身内にふつふつと沸きあがる反骨精神が顔に現れそうになった時、ディードは奇妙な気配を察知した。


「おはようございます」


 道ですれ違った男がそう言った。


「他国の者か?」


 体から放たれる魔力、緊張感を感じさせない態度、そして……明るい茶色をした髪。どれを取っても、闇の国の人間とは思えない。


「いえ? あぁ、この髪ですか?」


 ディードは無言で頷く。


「私の父はこの国の人間ですよ。生まれてこの方、ずっと闇の国育ちです」

「……そうか、すまなかった」

「いえいえ、私も紛らわしいので」


 普通の会話が成立していたのも束の間、ディードは警戒するような表情で問いを投げかけた。


「……何故、わたしに話しかけた?」


 順当に考えるならば、軍の動きに気付いた者の処理、だろう。

 この国では子供ですら安易に挨拶はしない。全員が全員、善良な民であるという保証がないのだ。

 その状況でただ挨拶してきた、というのは不可思議でしかない。

 さらに、軍としても事前に戦争を行うことを明かされれば、不都合だろう。

 軍というのだから当然、血気盛んなものは多い。それでも、精々半数がいいところだ。残り半数は、権力や力を持った普通の人々だ。


「挨拶をするのは当然では?」

「……そうか。そうとも言えるな」


 挨拶をし返し、去ろうとしたディードの背後から、声が聞こえる。


「私は白です。縁があればまた……」


 振り返ると、白の姿は消えていた。

 ただ、それに対してディードは多くの疑問を持つわけではない。むしろ、読んでいた通りの結果に含まれていた。


「(術を使った気配はなかったが……やはり、わたしの動向を探っている者がでているようだ。それも、途轍もない足の軽さだ)」


 カッサード部隊長の屋敷に向かったことで警戒していたとすれば、この反映速度は凄まじい。

 それはつまり、ディードが国に背いていることを示していた。いつもの彼ならば、良くは思わなかっただろう。

 しかし、今だけに限り、その結果は確信を得る吉報ではあった。


「(つまり、わたしの読みは間違っていなかったわけか)」


 戦争が事実になった、ということは不都合でもあるのだが、彼はそれを自分で止めると覚悟しているだけに悲観はしなかった。


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