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「……あっ、起きた? 起きた?」
「ああ、どれくらい寝ていた?」
俺はティアがいるのだと判断し、問いを投げかけた。
「四日くらい? すごいひどい感じだったよ」
「生きているだけでも拾い物だな……はは」
乾いた笑いをし、俺はベッドから起きあがる。幸いなことに、痛みなどはすっかり消えていた。
「お父さんが呼んでいるから、来て!」
そう言われ、俺は脊髄反射的にティアの後ろへとついて行った。あまりに気力のない歩きに、アヒルの子供みたいだな、と自嘲してしまう。
元気に入口を開いて入っていくティアとは反対に、俺は気だるげに布を被りながら入っていく。
シナヴァリア顔負けの仏頂面が俺を出迎え、抜き手で腹に腕を突っ込まれたかのように、緩みきった胃が引き締められた。
「やっと起きたか。帰れという忠告を守らなかったからだ」
「ああ、利口なら帰って見逃すべきだったな」
助けてやったのに、などとは言わない。
「大口を叩いてあの様か。聞いていた以上に腑抜けているみたいだな、光の皇」
「今ある日常を守るには十分なはずだったがな。旧態依然のジジイと大昔の骨董品相手にはあの様だ」
恩に着せず、数日前と同じように語る。相手が相手ならば懇切丁寧に頭でも下げたり、お茶と談笑でやんごとない時間を過ごしてもよかった。
良くも悪くも相手は田舎者だ。それも、うちの大聖堂のように歴史の浸食を頑なに拒絶しているかのような、厄介な障害物。
「ねっ! ねっ! お父さんも善大王さんも! 喧嘩しにきたんじゃないよね!」
ティアが間に入った時点で、俺は表情を柔らかくする。
いつ如何なる時も幼女には最上級の笑顔と軽やかな話術を持って向かい合わせなければならない。
「ま、そうだな。大丈夫だ、喧嘩をしているつもりはない」
「軟弱者が」
「幼女には平等な優しさと敬意を持つ。俺の流儀は強固で頑固で巌のように確固たるものだ」
しばらく睨み合うと、ティアが口を開いた。
「《風の一族》は善大王と正面対決をするの。勝てば渡す、負けたら帰って。お父さんはそう言いたいの」
それを聞き、改めて族長の顔をみる。相変わらずの強面だが、今に限っては肯定を示すように目を閉じていた。
「なるほど、実力主義か。いいだろう。だが、そっちは大丈夫か? この前の一件でボロボロみたいだが」
「心配などいらぬ。それに、光の皇の相手はティア一人だ」
ティアを見ると、愛らしい中に強い決意を感じさせる表情をこちらに向けてくれた。
「代表戦、か」
本来ならばうまい勝負。恩を売った甲斐があると両手を挙げて喜ぶところだが、今回はそうとも言えない。
ティアはあの魔物を相手に、一切の恐れもなく戦っていた。
それだけではない。あの撃破は俺の最終攻撃で成ったものでこそあるが、ティアの余力をみれば俺の必要性すら怪しいところだった。
おそらくはこの里の最高戦力。善意や好意からのセッティングではなく、正面対決での決着を望んでいる。
古くからの閉鎖部族を解き放たんと挑みし善大王、ただの一人にすら負けてもなお顔を出せるのか? 敗北の後にはそんな言葉がついてくる。
もちろん、直接は言われないだろう。だが、それを実感するのは間違いなく俺自身だ。
……だが、そうはいくものか。
「いいいだろう。ティアとの一騎討ちで決着をつける」