表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
277/1603

 薄暗い部屋の中、座する男は別段不機嫌な表情を見せず、平伏す二人の男を見据える。


「トニー、お前の結果はどうなったんだ」

「……失敗に終わりました」

「仔細な情報の開示くらいは、してくれるだろうなぁ?」


 口調こそ荒いが、憤っている様子は見せなかった。


「光の月──そして、おそらく《神獣》と思われる存在に妨害を受けました」

「《神獣》……? なるほど、光の巫女サマを倒すのは容易じゃねぇらしいな。十分だ」


 意外にあっさりした反応に、トニーは疑問を抱く。

 言葉には出さなかったが、黒髪の男はトニーの聞きたがっていた答えを告げた。


「お前に任せたかったのは実験。光の国に奇襲を仕掛けた場合にどうなるかについて、だ。報告書を見る限りは、執務室まで侵入できているらしいじゃねえか──いずれ来る計画を考えれば、十分な収穫だ」

「神器の回収は」

「……全くもってどうでもいいとは言わねぇが、あんなものがなくてもどうとでもなる……ライム(ガキ)のドジをカバーする義務もねぇしな」


 それだけ言うと、今度はもう一人の男──スタンレーに視線を送る。


「てめぇはどうなんだ? 盗人(ぬすっと)

「おれも失敗だ。だが、第一目標は達成している、文句はないはずだ」

「ああ、そうといえばそうだなァ」


 スタンレーが任された仕事は二つ。

 一つは善大王とフィアを足止めすること。トニーが戦っている最中まで天の国に押し込んでいた時点で、これは達成している。

 二つ目は、フィアを捕獲することだった。

 スタンレーとしては、二つ目は達成できないと最初から理解しており、一応は捕獲しようとしたと示すべく一度は《カルトゥーチェの首輪》を盗み出している。

 《秘術》の入手という、個人的な目的が果たせなかった時点で、この任務は割りに合わないものになっていたのだが。


「だがなァ、謝罪する態度もみせねぇようなら……オレも穏便には済ませねぇぞ」

「……」


 スタンレーと黒髪の男、二人の青い瞳が互いの姿を映した。

 だが、思ったような戦いは起きず、黒髪の男が皮肉るような動作をしてみせる。


「ったく、食えねぇ男だ。さっさとあがれ」


 スッ、と立ち上がると、スタンレーは一礼してから部屋を出て行った。

 しばらくすると、トニーが口を開く。


「よろしかったのですか、黒様」

「ああ、あいつは使える駒だ。……まァ外部の人間を使いたかねぇが、奴の側からこちらに入ったのは、都合が良かったかもしれねぇな」


 黒はスタンレーの狙いを何割は読んでおり、その上で脅威なりえないと判断していた。だからこそ、彼を登用していた。

 それ以上に、黒は何かを感じていたのだろう。故に、彼の情報を多くは出さず、加入したという程度に留めている。


「それにしても、雷の国に出したあいつはどうなってやがんだ。いつまで経っても連絡すら寄こさねぇ」

「……あの男ですか。実力も、組織への忠義も、不安はないかと」

「そういうことじゃねえよ。それに、あいつは組織への忠義つぅより……ただお人好しなだけだ」


 組織は既に、このミスティルフォードの各地に侵食していた。

 善大王はまだ、そのことに気付いてすらいない……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ