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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
272/1603

 ──それは、数年前のこと。


 トニーは今と同じく、組織の人間として活躍していた。

 この当時は今以上に実動隊側に参加していたこともあり、交戦する機会は多かった。

 外の問題というよりも、内の問題を解決しなければならなかった、というべきか。

 闇の国の有力貴族を消すことも、彼の任務の一つだった。

任務の最中、標的となる貴族が統治していた町に訪れたトニーは、武器も持たずに動き出す。


「敵だ! 殺せ!」

「貴族狩りなど、馬鹿馬鹿しい!」


 組織の貴族狩りが実態を持ち、正体不明の殺人事件という都市伝説じみた現象に、多くの貴族が対策をしていた。

 町に歩く私兵達は、よそ者が入り次第、断りを入れることもなく襲いかかっていた。

 トニーは迫りくる武装兵の剣を片手で止めた。出血はない。


「くっ……は、離せ!」

「……消えろ」


 刃を持ったまま、トニーは兵を地面に叩きつけた。

 瞬間、兵士の肉体は高所から転落したかのように、破裂する。


「な、なんだあいつ!」

「ば、化け物だ!」

「ばけ……ま、まさか……! あの黒い髪、人間とは思えない力……《吸血鬼》なのか!?」


 恐怖に怯え、逃げだそうとするも、トニーが動き出すと同時に捩じ切られていき、人間の粗引き肉(ミンチ)がそこら中に転がった。

 闇の国に伝わる、伝説の化け物──旧支配者、吸血鬼。トニーは、その生き残りだった。

 鋭い爪は首を切断し、凄まじい筋力から放たれる攻撃は、腕の一薙ぎだけで人肉を炸裂させる。

 住民も危機を覚え、逃げだしていった。

 彼らは貴族達とは直接的な関係がない上、任務の本質──貴族の発言力の低下──を考えるのであれば、放置しても構わない。

 ただ、トニーは本質だけに留まらず、組織を優先した。

 組織の存在を知る者がいてはならない。組織が、こうした直接的な力を運用していると感づかれてはならない、と。

 次々と兵や民を薙ぎ払い、トニーは奥へ奥へと進んでいく。

 そうして進んでいった先で待っていたのは、彼の最終目標。

 泥鰌髭を持ち、肥満体型の壮年男性。

 身に纏う豪奢な服──高品質な赤いベルベット製のようだ──や、ゴテゴテな金の指輪などの装飾品だけで、この者がかなりの富を蓄えていることが分かる。


「お、お前は何者なんだ! 何故このような真似をする!」

「この国にとって、邪魔な存在だからだ」

「他の貴族の差し金か……くぅ、いくらだ! いくらで雇われた! お前のような男が貴族に仕えているはずもなかろう! 傭兵ならそれ以上の額を払おう!」


 まだ貴族に仕えていないのは事実だった。だが、まだ(・・)仕えていないだけのこと。

 トニーは鋭い爪を男の眼前に向け、問う。


「次期夢幻王を推す計画は知っているな」

「なっ、なんのことだ」

「とぼける場面か?」


 唾を飲み、貴族は両手を挙げた。


「わ、わかった。言おう……知っている。間違いない」

「なら参加者も分かるな」

「そ、それは……」

「言え」


 この計画とは、闇の国の貴族が結託し、狙いの者を夢幻王に据えるというものだ。

 夢幻王は善大王と異なり、実力さえあれば誰でもなることができる。必然的に、貴族等のしがらみに縛られずに済む者が多いのだ。

 それが、彼らからすれば面白くないらしい。

 だからこそ、貴族に対しての態度を理解している者を押し出し、癒着を進めるつもりだ。


「言えば、見逃してくれるのか」

「ああ、考えよう」


 既に町が壊滅している以上、口にする以外に生きる道はない。


「──だ。これで全員だ」

「……確認した通りだ。では、死んでもらおうか」

「なっ……話が違う! 私は要求に応えたはずだ!」

「次期夢幻王様の邪魔になる可能性を持つ者を、見逃すはずがなかろう」


 次の瞬間、貴族の首は胴体から離れる。

 時計の短針が進む前に、決着がついた。


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