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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
27/1603

6

 藍色の瘴気が立ちこめ、全員がせき込み始めた。

 あれは闇の九十九番・黒霧(ブラックミスト)。闇属性以外の術を完全に封じる霧を生み出す術だ。

 しかし、この空気はそれとは別の効果を持っているようにも感じる。そもそも、これは霧なんてものではない。文字通りに瘴気だ。

 次々と倒れていく者が目に入り、呼吸を中止する。毒素が含まれているに違いない。

 この力が広がりきれば《魔導式》が維持できなくなる。その前に一発でも……。

 《魔導式》を展開するが、既に効果が周囲に拡散してしまったらしく、空気中での維持は不可能だった。

 崩壊する《魔導式》を見て、俺は諦めを覚えた。

 勝てない……力が違いすぎる。

 無力感に襲われ、空気を吸おうとした瞬間、俺は大きく瞬きをした。

 ここで俺が死ねば、フィアとの約束が果たせなくなる。あいつは俺が助けてやらなければ、ずっとあのままだ。

 なら、一つの可能性に賭ける。一瞬だけでも時間を作れれば、少しでも逃げられる奴が増えるかもしれない。

 俺は自身の体に刻み込んだ《導式》を起動させた。

 腹部が黄色に輝き、発動の準備が整う。


「《光ノ八十三番・眩光(ブラインドフラッシュ)》」


 眩しい光が周囲を照らし、瘴気を緩和した。

 数人が目を覚まし、少しずつだが離れていく。しかし、この効果はそう長く続かない。そして……。


「かはっ……」


 俺は血を吐き出し、地面に倒れた。

 今使った技術は奥の手。導力を精製する器官と直結させ、一時的に超常能力如く瞬間発動を可能とする技。

 代償は凄まじい激痛。攻撃性を得た導力が器官内で暴れ回り、エネルギーの操作を困難とさせる。

 これは超常能力者にも言えることであり、彼らも《導術》や《魔技》を使うことはできない。

 薄れゆく意識をとどめ、《魔導式》を描いていく。希薄な式だが、それでも確実に刻まれていた。

 しかし、瘴気が再び満ち初め、光の文字は水泡のように消滅していく。


「ここまで……か」

「善大王さん! これなら間に合うよ」


 その声を聞いた瞬間、俺の目は開かれた。


「《風ノ八十四番・山嵐(パニックサイクロン)》」


 強風が吹き、周囲を包み込んでいた瘴気を吹き飛ばす。

 ティアは俺の横を通りすぎると、魔物に接近し、頭に飛び乗った。


「《風ノ六十一番・衝風(ショックウエーブ)》」


 手の平より圧縮された風が放たれ、魔物の外殻を打ち砕く。そのまま数発の蹴りを叩き込むと、ティアは振り落とされた。

 空中を舞いながら《魔導式》を展開し、再び詠唱する。


「《風ノ六十九番・鎌鼬(ソニックブーム)》」


 鎌鼬が魔物の四肢を切断し、移動能力を奪い去った。

 俺が知っている術の威力を越えている。ティアは、いったい何者なんだ。


「善大王さん、とどめはお願い!」


 俺は声を頼りに、見えなくなった目で照準を合わせた。

 未完成だった《魔導式》は既に刻みきっている。あとは、発動させるだけ。


「《光ノ百三十九番・光子弾(フォトン)》」


 強い光を放ち、《魔導式》は大気に溶けていく。そして、高密度に集束された光の線が精製された。

 それは目にも写らない速度で放たれ、魔物の胴体を貫いた。

 魔物は呻きをあげると、瞳に灯っていた光を消す。

 次第に巨体が大気に溶けていき、最後には完全に消滅した。


「勝った……のか?」

「うんっ! 勝った勝った! やったねっ!」


 俺は口許を綻ばせたが、意識が急激に遠のいていった。


「善大王さん? 善大王……さん! 起きて! ねぇ!」


 激痛、安心感。それらが俺の意識を繋ぎ止めていた鎖を断ち切り、闇へと落とす。


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