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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
268/1603

3

 アルマはとても子供らしい子供と思えるが、何も闇を抱えずに生きていたわけではない。

 自分と遊ぶ最中にも、先代が別の少女と関わっていることも知っていた上、彼の晩年にはその接触回数は目に見えて増えていたのだから。

 人間である以上、嫉妬することも多く、子供だからこそそれを素直に明かしてもいた。


「なんかずっこいよぉ! あの子誰なのぉ?」

「あの子? ……ああ、アカリのことだね」


 アルマが怒っていることを知らない先代は、平然と告げる。


「あたしともっと遊んでほしいのぉ!」

「ごめんごめん。でも、あの子も苦労しているからね……」

「そうなのぉ?」

「うん、両親がいないんだよ。だから、本当なら僕が父親になってあげるべきだったんだけど、あの子はこの国の為に働いてくれている」 


 小難しい話題が入り、アルマは良く分からなくなった。

 それでも、先代の様子からアカリが苦労しているということだけは分かり、納得するように頷く。


「遊んでくれなくなったり、しないよね?」

「もちろん。どうにか、時間は作ってみせるよ」


 アルマは、フィア程ではない──彼女は極端すぎる──にしても、先代のことを好いていたのだろう。

 その想いが恋慕だとしても、この時のアルマには、知る良しもなかった。

 アルマが十歳の時、先代は死亡した。

 それより以前から病床に臥し、笑みを浮かべることすら減らしていた彼だが、死の運命を逃れることはできなかった。

 もちろん、アルマも光属性の術や封印術を用い、病の治療や進行の阻止に手を尽くしている。

 それでも、何も変わらなかった。

 根本的に、先代の病は通常のそれとは異なった場所にあったのだ。

 治療班に混じり、症状から病を付き当てようともしたが、それでも何一つ該当するものは見つからない。

 独力で本を調べ、別の方法でアプローチを図るも、やはり無意味でしかなかった。

 そうして何度も治療する最中、先代もまた、何度も告げていたことがあった。


『もう、いいんだよ』


 彼は死を知覚し、それが覆らないことも知っていた。

 そして、死の数日前にアルマへ告げたのは、彼らしくもない言葉。


「次の善大王が来たら、仲良くしてあげてほしい。できることなら、助けてあげてくれないかな……」


 アカリに頼んだ内容と、同じものだった。

 きっと、先代はアカリが自分の願いを聞き届けてくれない、と察していたのだろう。信用云々ではなく、彼女の性質から。


「うんっ、任せて……でも」

「それと、できればだけど──アカリに伝えてほしい伝言があるんだ」


 ここで関係のない女性の話題が出てきた。フィアであれば激怒するところだが、アルマは慈しみの心から、頷く。

 全てを言い終えた後、先代の瞳からは光が消えていった。


「アルマちゃん…………楽しかった」


 その声を最後に、先代の肉体から魔力が完全に途絶える。

 死を認識したアルマは、涙を流すこともなく、逝った先代の姿をしばらく見つめ続けた。


 ──客観視すれば悲しい思い出なのだが、アルマからすれば大切な思い出だった。

 彼女は涙ではなく、過ごした時間が楽しかったと言った先代善大王の為、笑顔であり続けた。

 そうして積み重ねられていく記憶で織り成し、人を好く気持ちから、アルマは二人に送るべき術を作り出す。


「……あと、少しかなぁ」


 アルマは封印術の構想をおおよそ纏め終え、紙に書き出した。

 そこに来て、ようやく一つのことに気付く。


「指輪も作らないとなぁ……でも、どうしよぉ、作り方分からないよぉ」


 一番大事なことを思い出したアルマだが、根本的な解決策は全く思いつかなかった。

 ただ、何もかもが止まっているというわけではなく、すぐに一つの方法が導き出される。


「指輪職人さんに頼も! えっと……お城に呼ばないとだねぇ」


 通信術式を開くと、親衛隊の者に連絡を取った。


『はい、姫様』

「あのね、指輪職人さんを教えてほしいのぉ」

『指輪職人……はい、王家繋がりの彫金師なら紹介できますが』

「いるんだね。なら、名前とかを教えてもらってもいいかなぁ」


 ごく普通な返答だが、親衛隊は驚いたような声で返す。


『依頼なら私が出しますよ』

「うーん……じゃあ、お願いするねぇ」


 待ち合わせなどの詳しい情報を聞き終えると、礼を言ってから通信術式を切った。


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