アルマのおるすばん
善大王とフィアの前に現れたスタンレー。彼が口にした、善大王すら知りえない組織……。
それは、世界の裏に存在し続けた者達。表舞台には立たず、それであって大きな影響力を持った集団。
善大王とは、今後も関わっていかないであろう組織。
薄暗い部屋の中、藍色の炎が唯一の灯火という場所にて、中年手前の男は平伏していた。
ガムラオルスの冗談じみたものではない、制服的な意味を持つ黒マントを羽織り、腰には黒一色の剣を差している。
黒い髪に、灰色の毛が僅かに混じっているという、ミスティルフォードでは珍しい髪。ただ、その本質がラグーン王のものと異なることは、一目瞭然。
ラグーン王を動物的な黒と比喩するならば、この男のものは色としての黒というべきだろうか。
光沢、艶なども乏しく、塗料で染め上げたと言われても疑わないような、純粋な黒色。
「トニー、お前に任せてぇ仕事がある」
「……はっ」
トニーと呼ばれた男は、そこで面を上げた。
視線の先には、玉座のような装飾を施した牛革椅子に腰掛け、獲物を狙う狼のような目をした男がいる。
トニーと同じく、その男の髪は黒かった。ただ、こちらはラグーン王のそれに近い。
貴族が身に纏うような上質な軍服を着ているのだが、上着のボタンを閉めていないという着崩した形だ。
「《聖魂釘》の名に聞き覚えは」
「《二十二片の神器》と」
「……よし。じゃあ、そいつを奪ってこい。場所は、光の国だ」
座する男は青年、成人してからそれなりな期間を過ごしたという様子ではあった。だが、それにしては態度も大きく、口調も荒い。
部下と上司、という上下関係の存在も感じざるを得ないが、ただそれだけという話でもなさそうだ。
「善大王、そして滞在中という天の巫女は」トニーは問う。
「スタンレーを時間稼ぎに回しといた。少なくとも、お前が取ってくるまではやれるだろうよ」
「あの者ですか」
「奴が何かしら、組織を利用しようと動いていやがることは分かっている。だが、それはオレらと同じだ、都合よく使わせてもらおうじゃねえか」
どうにも完全な信頼を受けているではないにしろ、スタンレーはかなりの実力者として数えられているようだ。
トニーは立ち上がると、確認するように告げる。
「《聖魂釘》、必ず持ち帰りましょう」
「ああ、任せるぜ」
そうして、トニーは部屋を後にした。




