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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
263/1603

17

 そうして訪れてしまった結婚式当日……。

 フィアは空色と黄色に染められた花嫁衣装を身に纏い、ビフレスト王と共に式場の中を進んでいく。


「フィア、本当に結婚するつもりなのか」


 最後の確認をするかのように、ビフレスト王は小さな声で言う。


「うん。ライトとずっと一緒にいたいから」

「……フィアは、理解しているのか? ずっと(・・・)、という意味を──苦しませることにならないか?」

「お父様、ごめんなさい」

「いや、幸せになってくれればそれでいい。私も、ずっと後悔してきた。真に愛せる者が、十三年間で見つけられたのであれば、上等だ」


 暗い表情を含ませていた二人だったが、すぐに切り替え、式場の雰囲気に合わせた表情にした。

 この日の為に用意された神父の前で、二人は立ち止った。そして、ビフレスト王から先に、その場を離れていく。

 静まり返る中、誰もが善大王の到来を待っていた──のだが、一向に現れる気配がない。

 フィアが周囲を見渡した途端、それは来た。

 神父のちょうど真後ろにあった窓ガラスが叩き割られ、善大王は登場する。格好は、善大王の白い法衣だ。

 ざわめく会場の中でも、善大王は表情一つ変えず、宣言する。


「結婚は、ナシだ!」


 その無責任にしか感じられない発言に、周囲が静まり返った。


「善大王、書類にはサインをしたはずだ」ビフレスト王は言う。

「ああ、俺の拇印でな。だが、それは俺の指紋ではない……調べてみるか?」


 調べるまでもないが、善大王の言っていることは本当である。彼は咄嗟に導力を流し込み、余計な指紋を複数混ぜていた。

 ただ、紙での契約など大した問題ではない。最大の問題は、ビフレスト王の面子を潰すことだった。


「ライト……」

「フィアの世話は見る。だが、結婚するかどうかとは別問題!」


 反感が沸き上がりそうにもなるが、ビフレスト王は理性的に挙手をする。


「フィア、お前はどうなんだ。結婚したいのではなかったのか?」

「私は……」


 結婚したいの一心で、ここまでの無理を通したフィアとしては、最後まで走り通すつもりだった。


「(フィア、俺を選んでくれ。俺を、信じてくれ)」


 普通に考えれば結婚する、という選択肢を促す善大王の思考だが、フィアはそうではないと気付いている。


「……私は、ライトと一緒に行きます。天の国には迷惑かけたって分かるけど、それでもライトと一緒にいたい」

「そうか」


 ビフレスト王と視線が合った瞬間、善大王は悟った。


「では、フィアはもらっていく。さらばっ!」


 窓の外に戻っていくと、衛兵達は槍を構えて善大王達を追跡しようと動き出す。


「よい」


 制止を呼び掛けると、ビフレスト王は席に座っている貴族達に告げる。


「……と、いうことだ。フィアは変わった。既に、《空色の宝石》ではないと知れ」


 ビフレスト王も、フィアが何を悩んでいたのかを知っていた。だからこそ、フィアは知りえなかったが、そう呼ばないように活動していたのだ。

 しかし、それは根拠もない、王としての命令に過ぎなかった。ただ、今この場において、それは実態を持った真実に変動する。

 善大王の滅茶苦茶を許したのは──理不尽が成立したのは、ビフレスト王の手まわしによるものといっても過言ではなかった。

 結婚を申し込んだとは思えない善大王の反応に、ビフレスト王は疑問を抱き、シナヴァリアに確認を取っていたらしい。

 そして、フィアの独断と理解した為に、式に呼ぶ貴族達へと伝令を出した。フィアの変化を告げる為の式である、と。

 貴族達からすれば、このフィアの変化は想像以上に大きな驚きを齎すものだった。

 人と関わらないようにし、自我も薄く、堕落したような気配を持っていたはずのフィア。

 だが、善大王に連れ去られていく時のフィアは、それまでに見せたこともないような──とても魅力的な、眩しい笑みを浮かべていた。


「(……これで、罪滅ぼしになればいいのだが)」


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