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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
262/1603

16

「──ということなの」

「……待て、ならなんで今は俺だけの思考を覗ける?」


 フィアが能力を発動させた際、無作為に思考を覗いているわけではないことを、善大王は知っている。


「それ自体は、割と最近なんだよ? ……最近というか、ライトにもう一度会った時からかな」

「俺の気持ちを知りたいとか思って、修行してたわけか。あんな態度取ってた割りに、努力家なんだな」

「むっ、そうだけど……なんか癪っ!」


 善大王は納得したように、軽く手を叩いた。


「まぁ、なにはともあれ、その事件が自傷行為の真実ってことでいいんだな。通りで、過剰すぎると思ったわけだ」

「……えっ? あれはライトが助けにきてくれるかなって思ってやったんだけど」


 善大王は呆れたような顔をし、視線を逸らせた。


「世界の誰もが私を否定した。でも、ライトだけは私を受け入れてくれて、救ってくれた──お父様も、今考えてみれば大切に思ってくれていたのはわかるの。でも、本当の意味で助けてくれたのは、ライトだけだから」

「そうか」

「私は、ずっとライトだけを好きでいるよ。だから、結婚したいの」


 ゆっくりと目を閉じた後、善大王はフィアの目を見て話した。


「なぁフィア。お前は、今も昔と同じ風に思っているのか?」

「えっ?」

「世界は悪いものだと。誰もがお前を否定し、誰も助けてくれないと」

「それは……」

「フィアはエルズを好きになれたよな? エルズは、お前にとって悪い存在なのか?」

「エルズは……エルズは別だもん」

「じゃあ、巫女の仲間はどうだ? あいつらのことも信じていないのか?」

「違う! みんな、みんな大切な友達で……私が信じていなかっただけで──」

「分かっているじゃないか。そうだよ、フィアは変われたんだよ」


 優しげな善大王の言葉に、フィアは安堵を覚えた。


「俺が言ったから、俺がいたから変われたかもしれない。でもな、俺はフィアに機会をやっただけ……その道を歩んで進んで、手に入れていったのは、フィア自身なんだぜ? 自分が思っているよりも、お前は強くなっている」

「ライト……」

「それに、お前をひとりぼっちにするなんて言ってないからな。フィアみたいな危ない奴には、俺みたいな奴がついてないとな」

「もーっ! ライトったら」


 冗談のような言葉に、フィアは不信感を抱くこともなく素直にジョークで返した。


「じゃあ、部屋に戻るか」

「うんっ」


 手を繋いでフィアの自室を目指そうとした時、フィアは確認するように問う。


「結婚、楽しみだね」

「……結婚は、しなくていいと思わなかったか?」

「ライトの口車に乗せられたりはしないよー」


 自然を笑みを浮かべながら、善大王は眉を寄せた。

 いつものフィアならば、これで流され、あっさりと結婚をやめにしていたかもしれない。ただ、皮肉にも彼女は学習し始めているようだ。


 翌日、結婚式の予行などが実施されることになり、礼服に袖を通した善大王が式場に足を踏み入れる。

 天の国でも随一の式場なだけあり、料金も凄まじい。光の国の大聖堂には劣るが、それでも一回だけで小さな屋敷が建てられるくらいだろう。

 値段に怖じいる善大王ではなかったが、話を進めているビフレスト王が目に入った途端、ばつの悪そうな顔をした。


「おぉ、善大王。なかなか似合っているではないか」

「そ、そうですか? ビフレスト王も冗談が上手い……」


 実際、貴族ら以上に整った顔の持ち主である善大王は、礼服姿も決まっていた。

 だが、これは謙遜というよりかは、実行を阻止できなかったことによる気の消費が原因だろう。


「ビフレスト王などと……お義父さんでも構わないのだが?」

「いや、本当に冗談はよしてくださいよ」


 本人としては、フィアとしての結婚を喜んでいるだろう、と考えていたビフレスト王は予期せぬ反応に疑問を抱いた。


「ハハハ、気負わずとも良い。善大王は無事に試練を越えたのだからな」


 快闊に笑い、ビフレスト王は善大王の手を強く握った。


「(これ以上話が大きくなったら、手に負えなくなるぞ……くそ、面子を潰す覚悟で言うべきか)」


 覚悟を決めた善大王はこっそりと席を外し、人気の少ない場所で通信術式を開く。


「シナヴァリア! 早く応答しろ!」

『──はい。善大王様、どうなりましたか?』

「どこかの貴族がフィアに求婚を申し込んでいると思っていたが、どうやら勘違いだったらしい!」

『そうですか』

「シナヴァリア、断っても影響はないか? 式の準備までしているが、断ってもいいですか?」

『駄目です』


 宰相に問うのは主体性が薄いようにも感じられるが、善大王の場合は報連相(ほうれんそう)を大事にしているのだ。この場合は、王として正しい行動といえる。

 事実、ここでシナヴァリアが止めていなければ、数百年規模で残る溝が両国に生まれるところだった。


「結婚だぞ、結婚! ここで両国が血で繋がることになれば……」

『言いたいことは分かります。ですが式の準備が始まった時点で、天の国の貴族に召集がかかっていることでしょう。繋がるリスクよりも、反故にするリスクの方が上回っています』


 善大王も承知の上だが、絶対に結婚したくないという意思は何よりも優先度が高い。


「なんでもいい! どうにか手を打ってくれないか!?」

『いいですか、善大王様。プラスに考えましょう……天の国との関係改善は、光の国として困ることはありません』

「いや、まぁ……だが、他国の目は?」

『フィア姫との関係についても、他国を巡っている期間で残る四国に通じているはずです。そこまで大きな反感はないはずでが──ただ、軍事的な同盟や貿易規制などを行わないと宣言すれば、軽減できるかと』


 シナヴァリアは現実的方向から、この結婚騒動をまとめようとしていた。

彼としても、この結婚が成立すれば、《風の国》建国へのビジョンが明瞭になる、という利点があるのだろう。


「相談して損した! もう知らない! 俺が自分で決める!」


 もはや子供の駄々っ子だが、善大王もその態度同様に切羽詰まっていた。

 通信を切った途端に、次にどうすればいいかを全力で考え、思考を巡らせる。


「なんとしてでも……止めるしかない」


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