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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
257/1603

12β

 ついに気付いたフィア。しかし、髪の色で分かっていてもよさそうなものだが、フィアはなにぶん他人に興味がない。

 ただそういう存在がいる、という程度の浅い認識だったようだ。

 鎧の男が死亡した瞬間──いや、三人の仮面の男が現れてから、フィアは明確な違和感を感じている。それは善大王も同じ。

 相手からは生気が放たれていない。それどころか、殺した時の実感すら薄かったのだ。

 相手が既に死んでいると悟っていたからこそ、二人とも迷っていない。説得に移るようなこともしなかった。

 そこで繋がる。善大王がムーアであると気付いたのは、ムーアが死人であることを知っていたからだ。


「(ライト……なら、私も頑張らないと)」


 相手は貴族。低順列の術を連射するなどという、見た目が美しくない戦い方はしない。

 もしも連打していたのならば、フィアは容易に相手の居場所をあぶり出せていた。


「(まだ酔いが残ってるの? それとも、これがムーアさんの幻術ってこと?)」


 ただの虚空を眺めながらも、フィアは目を閉じ、考える。

 善大王とムーアの戦いが始まったのか、周囲には霧が満ちた。濃色の藍色、視界は最悪そのもの。

 遠くに向かった善大王の姿は消え、既に捉えられなくなっている。


「……来るかな」


 目を見開いた瞬間、フィアの瞳には虹色の光が宿った。

 まず最初に、フィアの読みは失敗する。

 老人は《魔導式》を未だ展開中。もちろん、それ自体は目視できないのだが。

 ただ、《天の星》としての能力を使った彼女ならば、もう間違えない。


「……上級術ね。なら、こっちも適当に受けることはできないかな」


 すばやく展開された《魔導式》が起動する。発動されたのは、天ノ十五番・星沫(スタースプラッシュ)だ。

 攻撃が来るのを予期しながらも、フィアは複数の《魔導式》を展開していく。《天の星》としての才能を信じているのか、彼女は安易に上級術に頼らなかった。


「《天ノ百二十三番・煌輝撃(シャイニングブラスター)》」


 相手が防御する手を持たないと判断してか、老人は駄目押しで詠唱を行う。

 詠唱さえなければ、と前提を持って動かれていることを想定すれば、こちらの方が懸命。さらに言えば、フィアだけでは回避できないとも読んだのだろう。

 煌く橙色の極太光線が放たれる。撒き散らされる閃光と迸るスパークは、まさしく属性の頂点に位置する天属性を象徴している。

 固定砲台用とすら言われるこの術は、充填時間が凄まじく長いのだ。それを余りあるほどの破壊力と命中精度は評価に値する。

 この場での成立は、ムーアの幻術による弱点の克服によるものとみてもいいだろう。

 だが、フィアはこの時を待っていた。


「《天ノ十九番・空線(エアレーザー)》」


 彼女らしからぬ詠唱。ただ、これこそがフィアの狙いだった。

 老人のそれと比べると、遥かにか細い橙色の光線が打ち出され、迎撃として向かう。

 その一発は多少抵抗した後、速度を誤差の範囲で減退させるだけで消滅する。

 

「二連《天ノ十九番・空線(エアレーザー)》」


 二度目に放たれたそれは、一発目の光線よりもさらに破壊力、出力を増していた。

 もちろん、それで順列差が六倍近くの術に打ち勝てるはずもなく、再び敗北する。


「三連《天ノ十九番・空線(エアレーザー)》」


 馬鹿の二つ覚えの如くに連打するフィア。一見すればその比喩の通り。

 連続自体は天ノ十五番・星沫(スタースプラッシュ)の効果だ。術を繋げていく度に威力や《魔導式》の展開速度を加速することができる。

 しかし、フィアは低順列、それも最初から展開したものをチェーンしているだけに過ぎないのだ。

 これでは術の効果も、本来の力を発揮できていないとしか言えない。

 あと僅かで命中するという距離に迫った瞬間、フィアは同時展開していた五個の《魔導式》を分解し、急速に一つの術へと再構築していった。

 天ノ十五番・星沫(スタースプラッシュ)の効果で追加されていく《魔導式》の速度、再構築の速度は極限にまで高まり、間に合わないはずの時間に足を乗せた。


「四連続《天ノ百十一番・聖炎剣(レーヴァティン)》」


 巨大な橙色の火柱が立ちのぼり、それが恰も炎の剣かのように、橙色の極太光線へと振り下ろされる。

 凄まじい力の衝突で周囲の霧が吹き飛ばされ、それでもなお衝突は続いた。

 だが、勝負は決している。今起きている現象は、ただの効果処理に過ぎないのだ。

 圧倒的な力に押しつぶされ、光線は完全に消滅する。そして、攻撃を終えた炎の剣は地面を溶解させた後、大気に溶けた。

 ただ一度の術発動だけで、小規模なマグマ溜まりを作るという時点で、攻撃力の異常さは目に見えて明らか。

 さらにいえば、老人も今の一撃で葬り去られ、マグマの中に消えた。フィアは能力で事実だけを認知しているが。


「ライト、私はやったよ。あとはお願い──なんて、私にはまだ仕事が残ってるんだけどね」


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