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「ライトっ!」
「おっ、終わったか」
扉を開けた途端、すぐに抱き付いてきたフィアを、これまた神掛かりな読みで受け止めた。
「何を話していたんだ?」
「えっとね……」
「それは、私から話そう」
鋭い眼光を向け、ビフレスト王は告げる。「フィアに、ついてだ」
「フィア……について」
不吉な問いに対し、善大王は僅かながらに疑念を抱いた。よくない結果を、予測したのだ。
「(フィアを連れ出すのは今日まで、ということか? いや、だとすればフィアが暗い様子になっているはず……俺への依存も完全には消え切っていないのも、間違いない)」
「天の国の儀式については、知っているか?」
「知らないのだが」
思考をめぐらせている最中だった為か、浅い質問だったこともあり、軽く流す。
「他国の文化について、少なからずは見聞を深めておくことだ」
「何の儀式かを言ってもらわないと、全部言うことになるが?」
威圧されたとしても平然と言い返せる辺り、善大王は王としての肝が据わっているようだ。
「婚礼の儀だ」
「婚礼……? 一月程はかかる試練の連続、ということ程度は」
「十分だ」
「……婚礼。それは、天の国──フィアを狙った貴族と?」
もちろん、結婚する気などない善大王からすれば、この唐突な問いは混乱を生むものでしかなかった。
フィアはもう結婚する時が来ており、その婚礼の儀を突破した者がいるからこそ、外出許可はここまで──という風に解釈することも可能だ。
もちろん、フィアが結婚を急かしてきたのも、そこに繋がってくると推理できる。
「天の国を狙っているかどうかは知らん。ただ、傲慢にもフィアを嫁に取ろうとしている」
「なるほど」
善大王はさらに推理を巡らせる。
「(あのビフレスト王が断ろうとしていない辺り、天の国の中核貴族か? いや、儀式のことを言ってきたからには、文化的拘束力が強いのかもしれないな)」
「善大王には、この婚礼の儀を受けてもらう。構わないな」
「……分かった。天の国への義として応じよう」
怪訝そうな顔をするビフレスト王を見て、疑問に思いながらも、善大王はもう一度頷く。
「詳しい日程は後で伝える。宰相にも伝えておけ」
去り往くビフレスト王を見送ると、フィアが近付いてきた。
「ライト、ありがと」
「困った時はお互い様だ。それに、天の国へ恩を売ることができるかもしれない」
「そう……なの?」
「ああ、夢が詰め込めそうなくらいに、頭空っぽなフィアには分からないかもしれないがな。とりあえず、俺はその婚礼の義を受ける──そして、なるべく早く終わらせる」
「ライトかっこいい!」
「それほどでもない」
若干決めが入っている善大王に対し、フィアは首を傾げる。
「ねぇねぇ。夢が詰め込めるっていいこと?」
「ああ」
「頭空っぽって? これ馬鹿ってことだよね?」
「……」
じっ、とした目で見てくるフィアに、善大王は鼻で笑いながら笑みをこぼす。
「そういうアホっぽいところが可愛いんだよな、フィアは」
恰も愛玩動物に接するかの如く、髪をくしゃくしゃに撫で、ぎゅっと抱き締めた。
フィアとしてはかなり不服な扱いなのだが、愛されていることを実感し、彼に抱き付き返す。
「ライトだいすきっ」
「俺も好きだ。フィア」
「でも、頭空っぽって言ったよね」
「……最近は目ざとくなったなぁ。昔は色惚けお姫様だったから簡単だったのにな」
「なんか、また馬鹿にされてる気がする」
「さて、とりあえず日程の情報提供を頼む。どうせ、試練を突破する毎に次の、次の、と続くだろうしな……さっさと情報収集だ」
詳しい試練内容については重大機密扱いにされているので、いくら物知りの善大王でもしらないようだ。
「うん! そうときたら、予習復習だね」
「復習じゃないがな……」




