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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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4

「ねぇ、お父さんを本気で倒しちゃう気だったの?」

「さぁ、どうだろうな。……で、族長は強いのか?」

「結構強いよ。戦ったことはないけど」

「なら、大変な勝負になりそうだ」


 笑いながらそう言い、ティアについていく。


「領地ってのになったら、自由になれるんだよね」

「ん……ああ、そうだな。閉鎖民族という風習も消えるわけだしな、他国に行くのも自由になるはずだが」

「なら、わたしは善大王さんに賛成かな。外の世界に行ってみたいし」

「それなら、族長の前で賛同してくれ。娘が言うなら聞いてくれるだろ」

「お父さんは頑固だからねぇ、わたしが言っても聞いてくれなさそうかな。だから! 善大王さんには頑張ってほしいよ」


 期待の眼差しを向けられ、俺は噴き出してしまった。


「ああ、やれるだけは頑張ってみるよ」


 到着したのは小さなテントだった。


「ここ、わたしのお家だけど、今日は使ってもいいよ?」

「お家って……族長とは別なのか?」

「小さい頃はあっちだったけど、最近はこっちかな」


 テントの中は生活するには不自由しない程度の広さだった。

 地面には外の世界で流通していると思われる本が積み重ねられ、衣類などが投げ散らかされている。


「だいぶ刺激的な部屋だな……うん、良いと思うけど」

「じゃ、そこのハンモックを使ってね。わたしはこのベッドに寝るから」


 そう言い、ティアはベッドの中にもぐりこんだ。

 俺はハンモックに乗っかり、毛布を纏うと、そのまま眠りに落ちようとする。


「善大王さんって、何歳なの?」

「俺か? ……三十二、だったか。年を取ると数えなくなるからな」

「じゃあ、お兄ちゃんと同じくらいなんだね」


 それから少しの間は雑談し、夜も更けてきた頃にティアは眠りに落ちた。

 さらに時間を待ち、完全に睡眠状態に入ったと確信した時、俺はハンモックから降りた。


「王族じゃないし、少しくらいつまんでもバレへんやろ」


 一瞬、シナヴァリアの影がちらついたが、そんなことも気にせずにベッドに入った。

 スッ、とスカートの下に手を伸ばした時、一つのことに気付く。


「うむ、下着類が落ちていないと思ったら、つけてすらいなかったのか。それでスカートって言うのも前衛的だなぁ」


 冷静に感想を述べ、むしろこの状況は都合がいいと、俺は早速戦闘形態に移行しようとした。


「ティア、来ました……」


 誰かがテントに入ってきた。声からするに、少年か。


「ティア? もう寝ていますか?」


 ああ、もう寝ている。さっさと出て行ってくれ。


「……ティア? 約束の時間ですが」


 瞬間、毛布が捲くられ、ティアに手を出そうとしている俺の姿が露わになる。


「や、やぁ少年。こんな夜更けにどうした」

「……な、何者だ」


 深緑色の髪をした少年。彼も間違いなく《風の一族》だ。


「俺は善大王。ちょっとした理由でティアの家に邪魔している。一応言っておく、ティアが誘ってくれたんだからな」

「で、何をしていたんだ! お、お前はティアに……」

「まったく、少年はピュアだなぁ。外界ではこのくらいのことは挨拶代わりさ。人々は出会いがしらにキッスをし、仲良くなればこんなこともする。自然なことだ」

「一族ではそのようなことはしない!」


 憤った少年は《魔導式》を展開した。緑色――風属性の属性色か。

 それにしても、この年で術を使えるとは、感心感心。ただ残念、俺は珍しい風属性の術を含め、全ての術を知り尽くしている。


「風ノ六十九番・鎌鼬(ソニックブーム)か。俺が回避したらティアに当たるぞ」

「ッ……何故この段階でそれを」

「くぐってきた死線の数が違うんだよ。ほら、今日は帰った帰った」


 しかし、少年は《魔導式》の展開を止めない。俺だけに命中させる気だな、若者特有の無謀か。


「ガムラン! そんなの使ったら危ないよ!」


 振り返ると、寝ていたはずのティアが目を覚ましていた。


「ティア……ですが、その男は」

「えっ、何かしてたの?」

「――いや、何にも。起こして悪かったな」


 起きている相手に手を出すのは少し気が引ける。

 大人しくハンモックに戻って横になると、入口に立っていた少年も《魔導式》を解除した。


「ティア、今日はどうしたんですか?」

「えっ、あー……呼ぼうと思ってたけど、善大王さんが来たから今日は帰ってもいいよ?」

「あの、分家の方からわざわざ来たのですが。あと、ガムランはやめてください。ガムラオルスという名前がありますので」

「遅いから、泊まっていく? ハンモックも空いてないからわたしのベッドに入れてあげるけど」

「ほう、良い話を聞かせてもらった。少年、このハンモックを使うといい、俺はティアのベッドに入らせてもらう」

「……この男は何者なのでしょうか」

「善大王さん! お兄ちゃんの友達なんだって」


 シナヴァリアの存在がほのめかされた時点で、ガムラオルスの顔色が変わった。


「ウィ――シナヴァリアさんの……ですが、こんな男と付き合っているなど」

「シナヴァリアは宰相、俺は王様。つまり俺は、あいつの上司だな」


 幼女と一緒にぐっすりコースを望んで食ってかかったが、ティアが口を挟んでくる。


「善大王さんだと狭いからやだ!」

「む……なら、ならばいいだろう。少年、今日のところは譲ってやろう」

「何様なんだよ、お前……」


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