表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
249/1603

4

「何を話しているんやら……盗み聞きなんてしたら、あの親馬鹿が怒るか?」


 フィアとビフレスト王は個室に入り、一対一で話している。善大王の立ち入りは認められず、扉の前で待つようにと言い付けられていた。

 善大王が気にしている個室の中はというと、想像以上に重い空気に包まれている。

 フィアは知ってのとおりで内弁慶もいいところ。ビフレスト王も、フィアを愛しているが、それを態度で表すことができない。

 両者の膠着状態は続くかに思われた。しかし、口火を切ったのは、意外にもフィア。


「お父様。私は、ライトのことが好きです」

「何故だ」

「ライトは、私を守ってくれた人だから。優しくて、強くて……」

「それで男を選ぶのは、正しいとは思えないな」


 いくら親馬鹿なビフレスト王とはいえ、自分の愛娘が別の男のものになるというのは、どうにも気に食わないらしい。

 もちろん、そんな私情での発言にも論理性は含まれていた。


「あの人は……あの人だけは、私を助けてくれたの。そして、ライトだけが、私を見てくれたの。天の国のお飾りとしてじゃなくて、私という女の子を」

「……」

「ライトと三年の時間を過ごして、やっと見えるようになってきたの。いままで、ずっと……ずっと、ただの背景にしか見えなかった世界が」

「それは、義か」

「愛……かな」


 認めたくはない。ただ、ビフレスト王は否定する資格を持っていなかった。


「お前を助けられなかった私に、邪魔をする権利はないか」

「違うの! そうじゃなくて……昔は分からなかったけど、お父様も私のことを考えていてくれたことは、分かるの。その、そういうのじゃなくて……」

「大丈夫だ。よく分かった」

「お父様! 迷惑かけて、ごめんなさい……優しくしてくれて、ありがとう」


 その言葉が出た途端、ビフレスト王は唖然とし、すぐに口許を緩ませる。

 善大王のやったことを全て許す気になれなくとも、娘がそれを理解するに至ったことに関しては、感謝するしかなかったのだ。

 言葉を発した後、反応の薄さにあたふたし始めていたフィアの頭を撫で、ビフレスト王は告げる。


「私こそ、ずっと謝りたかった。そして、ずっと感謝していた。フィア、よく帰ってきてくれた……善大王にも、感謝せざるを得ないな」


 父が認めてくれたのだと確信し、フィアは安堵する。

 だが、そこで止まるはずがなかった。


「交わりは認めないが」

「えっ?」

「二人の健全な交際自体は認めても構わない。だが、フィアと交わろうとすることだけは認められんな……子を身篭っては、彼としても厄介であろう」


 否定を入れようとしたが、フィアの脳裏には善大王が口すっぱく言っていた、結婚はしたくないという単語が過ぎる。

 それを思って悲しくなるのが昔のフィア。今のフィアは、逆に怒り出し、意地悪な手を考えた。


「私はそれでもいい」

「しかしだな……天の国と光の国は──」

「だって、私はライトと結婚するんだから」


 世界が、硬直したかのように、空間に満ちていた音が静止する。


「…………なんといった?」

「ライトと結婚するの」

「フィア、それは軽々しく口にすることではない。貴族に伝われば、善大王も手を焼くだろう」

「私が戻ってきたのは、お父様に気持ちを伝えたかったのもあるけど……お父様にライトとの関係を認めてほしかったの」


 善大王にいくら言っても、一度たりとも了承を取れたことはなかった。

 なればこそ、外堀を埋めるというべきか、外部から攻め落とすというべきか……ビフレスト王──父を介在し、結婚へと至る道を示す。

 このポジティブさは、善大王と共に過ごした結果。善大王としては、仇となった形だ。


「なるほどな……フィアがそこまで言うのであれば、中途半端な気持ちではあるまい」

「うん」

「だが、簡単に許すわけには行かない」

 一度フィアの様子を窺ってから、続ける。「善大王には試練を受けてもらう」

「試練?」


 大きく頷いた後、ビフレスト王は背をむけた。


「辛い試練だ。しかし、それを突破できるのであれば、王族として文句を出すことはできない──かつての私のようにな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ