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「そう、今回のミソは天の国との関係改善だ」
「あれ? 前は天の国とは仲良しって言ってなかった?」
「あれは常識も世間も知らない、お馬鹿なフィアへのたとえ話で言っただけだ。事実上は、天の国と光の国には、直接的な利害関係などがない……もちろん、血の繋がりも遠い過去だ」
「そう……だね。なんとなくだけど、今なら分かる気がするよ」
意図的にフィアを成長させようと、善大王は気が向き次第、書類などを見せていた。
故に、国の情勢が思った以上に良くないことを知っている。
《星》としては知ることのできない──調べようとしなければ分からないので当然だが──情報をも理解したのだ。
皮肉な話だが、このミスティルフォードで戦争が起きていないのは、ひとえに《星》という超常的な暴力装置によるところが大きい。
生物種は争いをやめることはできないのだ。ただ、例外としてその戦いでの犠牲比率が凄まじい数値に到達する時──それを両者が持っている時には、自然と止まる。
今が、まさにその状況。
各国は近年に政略的な交わりを行ってはいない。
他国に身売りをさせるよりは、自国の大貴族に上から目線での繋がりを手に入れた方が、安全かつ利益に直結するのだ。
閑話休題。現状は完全平和とは言いづらく、戦争という手段に出ないだけで、相手国から利益を奪い去ろうとすることが多く行われている。
《皇》のいる光の国や闇の国ですら例外ではないのだ。
いつか火の国で行われた鉱物取引についても、権力や友好ではなく、利益による取引が行われているだけ。
「ねぇ、冷静に考えたけど、いまライト……私にひどいこと言ったよね?」
「娘をここまで社会復帰させてやったんだ、ビフレスト王からすればかなりの借しになるだろうな」
「ねぇ」
「それにしても……本当にフィアは成長したな」
言いながらも、善大王は複雑な思いに駆られていた。
フィアの容姿は一切変わっていない。ただ、《星》の肉体構成が人間のそれとかけ離れていることは、善大王も知るところ。
つまりは、ビフレスト王も理解していると考えられる。
見た目が変わってないことで文句を言われないことは当然としながらも、このフィアをどう扱っていいのか、彼はそれを考えていたのだ。
「誰がお馬鹿なの?」
「(幼女の精神性もそうだが、俺は幼女の容姿が好きなんだよな……なら、このままのフィアというのは、とても都合がいいのではないか?)」
途轍もなく非道なことを言っているが、完璧超人の善大王が自覚していない以上、彼からすれば普通の考えなのだろう。
幸い、フィアは成長してはいるが、心自体は子供のまま。善大王のお眼鏡には適いそうではある。
「なんか、ライトろくでもないこと考えてそう……」
「ん?」
「あっ! あのね」
「なんだ?」
「誰が常識も世間も知らないお馬鹿なの?」
「さて……どうしたものか」
善大王が頭を抱えた瞬間、馬車の壁に穴を開け、橙色の光線が空に一本の光芒を描いた。




