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夜、里に到着した途端に俺は奇異の目で見られた。
ここにいる全員がティアと同レベルの能力を持つ人間か。そう考えると、火中に放りこまれた栗の気分になる。
「侵入者じゃないよ! あっ、侵入者だけど!」
どっちだよ! と突っ込みたくなったが、ティアの言葉で歩いている者達からは警戒心が取り除かれた。
「よし、族長のお家はこっちだよ」
ティアに手を引かれながらも進んでいくと、周りのそれよりも立派なテントに到着する。
何の気もなく入っていったティアを見た後、俺もそれに続いてテントの中へと入っていった。
途端、鋭い目線が俺に突き刺さり、背筋が寒くなった。
「よそ者か? ……何故、ここに来た」
「俺は善大王だ。就任したばかりだが、お初にお目に――」
「前置きはいい。何故来たのか、と聞いている」
どこかで見覚えのある威圧感だ。《風の一族》の人間はみんなこんな感じなのか。
「単刀直入に言おう。《風の大山脈》を領地に加えたい。天の国と光の国、どちらの統治下になるかは追って決める手はずとなっている」
「もし断れば、どうなる」
「光の国は軍を出し、殲滅することも厭わない。だが、この手は取りたくない」
「それはどういう意味で、だ」
「ああ、こっちの国から犠牲者が出るのは癪なものでな」
「正直な男だ。一度目の叱責の時点で話し方を心得ているじゃないか」
全力の煽りあい。本来、交渉はこのように行うべきではないのだが、ペースを崩される方が重いと考えた。
「善大王さん、領地に加わるとどうなるのかな?」とティア。
「そうだな、具体的には《風の大山脈》内に街などを増やすことになる。もちろん、生活基準も六大国家規模にまで引き上げることを約束しよう」
「わたし達はどうなるの?」
「統治国家側の国民となってもらう。《風の一族》としての掟やらルールは崩させてもらうが」
そこまで聞くと、ティアは目を輝かせた。
どうにも、外の世界に興味があるらしい。こういう会話は一人でもこちら側に引き込めれば話が早くなる。
「さぁ、ウィンダート族長。ご決断を」
「……せがれの入れ知恵か。外界に出したのは失敗だったか」
「せが……れ? まさか、あんたはシナヴァリアの」
「そうだよ! 族長はわたしのお父さん! だから、お兄ちゃんのお父さんってこと!」
まさか、あいつが《風の一族》の上辺だったとは。有能な理由もキチンとあったわけだな……あと、この威圧感も遺伝性、ということか。
それにしても、ティアが族長の娘だったとは、通りで強いわけだ。
「せがれに言っておけ。金輪際、この地に足を踏み入れるな、と」
「……交渉決裂か。さてどうしたものか」
「兵を送るならば好きにするといい。だが、戦うのはこちらに有利な土地ということを忘れないようにな」
「御忠告ありがとう。俺としてはその優しさで土地を明け渡して欲しかったんだがな」
しばらく睨み合った後、俺は小さな声で切り出した。
「幸い、ここには三人しかいない。俺があんたを消したら、どうなるんだろうな」
「やってみるか? 私は一向に構わないが」
勝てると自負しているのだろう。ただ、ティア以上の能力を持っているとすれば、確かに不利かもしれない。
この部屋が逃げるだけのスペースがない。その上、ティアまでおまけでついてくる。
「善大王さん、今日は遅いし泊まっていかない?」
「うむ、そうしてもらおう。明日、明るくなってから出ていってくれ」
この場ではどうすることもできないと察し、俺はティアの案内に従って歩き出した。