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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
239/1603

19β

 ──死刑執行当日。冒険者ギルド前にて……。


 ギルド周辺で情報収集をしていたエルズは、作戦決行日を処刑当日とした。

 既に職員百名以上を洗脳し、その伝手で二名の上層部役員から情報を引き抜いている。情報に間違いはなく、処刑に至っては一般にも公表されていた。

 本部がそれを発表したのが一週間前、そこからはティアに助けてもらった者、ティアを尊敬する冒険者などの多くの民衆が集まり、本部の前に詰め寄っている。

 その混乱が最高潮に達するのが、この処刑の当日だとエルズは睨んだ。

 この日に関しては、野次馬なども多く来る。警備が強い半面、エルズのように洗脳できる人間からすれば、もっとも容易な日だ。

 それだけにとどまらず、重役達も本部内にいる。全員を抹殺するには、この時をおいて他になかった。


「行こうか」


 服屋で年相応な子供用の服を買い、それに身を包んでエルズは人の海を渡っていく。

 細かい操作で自然に人ごみを裂き、足を止めることなくギルドの本部入口へと向かった。

 入口には数十人の役員が立っているが、右端から入ることで、数人を洗脳するだけでエルズは内部へと侵入する。

 説明を聞く限りでは怪しまれそうではあるが、この侵入に合せて詰め寄せていた民衆が押し寄せてきたので、正気な役員はその対処に追われていた。

 無事に本部内に入ってみると、役員達が忙しそうに走り回っているのが分かる。子供の姿でしかないエルズは悪目立ちするが、なにぶん忙しいので気にしようとしなかった。

 それもそのはずだ、表が突破されたのであれば大群が押し寄せてくる。そうでない以上、この子供は別段問題のない誤差としか思われていなかった。

 ただ、それでも上層に行こうとする度に声はかけられる。もちろん、この者らがただの末端であることはエルズの目を見ても明らかで、殺しの対象には含まれなかった。


「ねぇ、君。そっちは──」

「なあに?」

「いや……なんでもないよ」


 《邪魂面》は直接的な戦闘力はない。だが、こうした潜入に関しては、何よりも有利に働く。

 事前に聞き出していた配置を地図に書き出しており、それを頼りに道を進んでいった。

 確認として要所なども目視していくが、地図に間違いはない。尋問や自白剤ではなく、直接聞き出しているので間違いがあるはずもないのだが。

 ティアのいる監獄は本部の中層に入口があるのだが、エルズはそこを飛ばした。

 最初に向かうべきは、会議場。上層部が集っている、殺しの舞台。

 人目がなくなった瞬間、エルズは駆け出した。速度は《風の一族》のそれには劣る。

だが、諜報部隊の隊長である父、ムーアより鍛えられ、自身も諜報部隊員として活動していたことから同年代の子供をはるかに上回る速度をたたき出していた。

内部に探知術式があるのも計算通り、鳴り響く警告音を無視し、次々と進撃していく。

数名の警備兵が現れるが、ランクⅣ──そして《選ばれし三柱(トリニティア)》──の冒険者を破れる者がいるはずもなく、一瞬で倒れていった。

上層部しか入れない階層に来た時点で、エルズは顔に《邪魂面》を付けており、洗脳の発動にタイムラグはない。

勢いよく扉を開けた途端、警告音が届いていない──警備に任せ、常々から内部に届かないようにしている──会議場の静寂は破られ、混乱が満ちようとした。

だが……。


「子供?」

「子供じゃないか」

「だが、何故子供が」

「それにあの仮面はなんだ。悪趣味な」


 上層部の人間が好き勝手な言葉を述べている最中、突如として一人の役員が隣に座っていた老役員に殴りかかった。


「な、何をする!」

「押さえろ! ただの子供だろ──」


 エルズの憎悪は、以前の比ではない。

 ちょうど半分の役員達が一斉に暴れ出し、正気の役員に殴る蹴るの暴行を行う。

 あの時は急いでいた。そして、恐怖を与えることに特化していた。

 しかし、今は違う。今は、ただの憎しみでこの行為をしている。

 武器を用いない攻撃の殺傷性は、たかが知れていた。殺すにしても、相当な時間がかかる。

 ティアを無実の罪で処刑しようとし、子供を守るという正義の行動を裁こうとする、そんな冒険者ギルドへの断罪。

 長時間続く、混乱と恐怖と痛みを伴う報復。その終焉は許しではなく、死だ。

 逃げようとする者も出るが、隣の隣には正気ではない者がいるような状況、もちろん逃げられるはずもない。

 元冒険者の役員も混じっているが、仮にも相手が自分と同格の地位を持つ人間、そしてよく知る人間なだけに即座に殺すようなことができなかった。

 躊躇したものは手足を折られ、噛みつかれ、殴られ、蹴られ、すぐに動きが取られなくなる。

 中途半端に攻撃してみても、《邪魂面》の洗脳は肉体の限界を無視していた。手足が一本なくとも、平然と襲いかかってくる様をみるに、それは明らか。

 この場には、そこまで狂気に満ちていた者はいなかったが、もし殺したとしても効果はなかっただろう。

脳天をピンポイントに狙わない限り──筋肉が動いている限り、洗脳を受けた人間は攻撃をやめない。

 仮にも闇に位置する《選ばれし三柱(トリニティア)》。まさしく悪魔のような能力だ。

 ある程度を見計らうと、安全──ティアと自分の未来が──になった判断し、エルズは会議場を後にする。

 次の目的地は、監獄だ。


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