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──冒険者ギルド、監獄内……。
呆然としていたティアは、鳴り響く耳障りな音に気づいた。
通信術式が届かないはず、という常識は覆されている。《星》が持つ能力によって。
しかし、すぐにそれが通信術式だと気づく。
「(なんで、届くの……?)」
ティアは疑問に思い、通信に応じた。
『……ティア? ティアよね?』
その声は、ミネアのものだった。
「ミネア?」
『そうよ。フィアに頼まれたから……じゃない! ティアが心配だからかけたのよ』
「……そうなんだ。ありがとう」
『えっと……あーもう! 後悔なんてしていられない! あたしが出ていてもあれだから、すぐに変わるわ』
「誰に……?」
返事はなかった。
次の瞬間、ティアの瞳に光が宿る。
『……クク、俺だ』
「えっ……その声、がむらん?」
『その名で呼ぶな。この俺こそ、《魔轟風の使い手》、ガムラオルスだ』
ある時に山を出て行って以降、ガムラオルスとは会っていなかった。
しかし、この変化は明らかに変だと気づき、ティアは疑問を抱く。
『何馬鹿なことやってるのよ! ティアも困ってるじゃない!』
『うるさい、小娘が。この俺の崇高な名を穢されては困るからな』
『何が崇高な名、よ! ティアが付けてくれた名前じゃない!』
『黙れ小娘! この二つ名は《魔轟風》の──』
声の裏から爆撃音が聞こえ、ティアはびくんと体を震わせた。
『……ほら、早く』
小さくも、明らかに威圧しているような声が聞こえてくる。
『…………俺だ』
「う、うん」
『貴様と俺は、同じく彼の地より地上に降りた者。汚濁の地においてもなお、同じ魂を持つ者だ──貴様が助けを求めるというのであれば、手を貸してやらんでもない……それだけだ』
「それって……」
『では、さらばだ。いずれ会おう』
『ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 何勝手に満足してるのよ!』
複数回の爆破音が聞こえてくるが、ティアは笑い出していた。
『ティア、ごめん……ガムラオルスは──って、どうしたの?』
「えっ? あはは、何でもないよ。ただ、二人とも楽しそうだなぁって」
『楽しくなんて……あんな馬鹿──じゃなくて、ガムラオルスは迷惑ばかり……でもなく』
「いいの。久しぶりにガムランと話せて楽しかったよ」
『そ、そう?』
「うんっ……本当に、ありがとう」
ティアはそう言い、通信を切った。
一度は消えた瞳に、光は宿り続けている。消えかけたものが、再び息を吹き返しつつあった。
「ガムラン、また……会いたいなぁ」




