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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
235/1603

18α

「ライト!」

「なんだよ。今は遊んだ幼女の思い出に浸ってたところだ」

「仕事中になにやってるの! ──じゃなくて! 大変なの!」


 善大王は大きく伸びをした後、あくびを欠きながら問う。


「なんだ? 仕事もあるから早めに済ませてくれ」

「ティアが捕まったの」


 なんだ、という様子でペンを握り、署名を済ませていく。


「それくらい聞き及んでいる」

「来月の頭に処刑されることも?」

「……なんだと? それは俺も聞いていないぞ」


 一応は身内のことと、善大王はティアの案件を別途保存していた。

 机の抽斗を開け、ティアの起こした事件についての書類を取りだす。


「大量虐殺事件、となっているな。ただ、これはティアの冤罪だろう?」

「それは確定だと思う。でも、ティアはその犯人をかばおうとしているの。だから、真相を吐くつもりはない──それどころか、たぶんギルドも動いてないと思う」


 フィアはあの一瞬でティアの頭の中を覗き、ギルドマスターとの会話を記憶している。

 あのやりとりが、意図的にティアを裁こうとしていることは明白。でもなければ、エルズの話題をいちいち出したりはしないはずだ。


「で、俺に何をしろと? 真犯人を見つけるにしても、俺が使えるのは権力だけだぞ」

「真犯人なら、もうわかっている」

「おっ、さすがはフィア。手っ取り早い。なら、今から冒険者ギルドに連絡をしよう……と、できれば楽だったんだがな」


 もちろん、少女の心を見通せる善大王からすれば、最初から答えはわかっていた。それでも、小芝居を打たないとやっていられない状況だったのだ。

 片方はフィアの友達にして、世界の管理者。

 もう片方は、自分とフィアの娘。

 どちらかを切り捨てることができれば、簡単な案件だ。だが、それができないとなった途端、事態の難しさは究極となる。


「ねぇ、ライト……ライトなら、両方助けられるよね」

「まったく、簡単に言ってくれるなよ。いくら俺が《皇》だとしても、権力を無秩序には使えないくらい、わかってるだろ」


 《皇》は絶対権力を持つのだが、それは無制限に使えるものではない。

 各国で姫に手を出し、逃れられたことにしても、《皇》としての直接的権力の行使はしていないのだ。言うなれば《皇》を畏怖するが故の決着。

 もしも、この権力の行使が行われるとすれば、それは魔物がこの世界に侵略してきた時くらいのもの。

 魔物が数体現れている時点で、これをお伽噺やあり得ないことと思っていない善大王でも、ほとんど使わないと確信していた。

 何故そうするのか、その理由は一つだ。強すぎる権力の獲得は、得てして人間を狂わせる。

 それは夢幻王に限らず、過去の夢幻王に──世界に倒されることになった、善大王も然りだ。


「でも」

「わかっている。俺はティアも、エルズも見捨てる気はない。できるだけ、国や《皇》として、無理がない方法で両方を救うように手を尽くすさ」


 そこまで言って、善大王は会話を完全に終わらせた。

 もしも助けられなかった場合、どっちを切る、という言葉を述べることもなく。


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