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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
234/1603

18

 冷たい牢の中、ティアは項垂れていた。

 エルズを恨みもしなかった。エルズがいなければ、自分は助からなかった、リーフもまた。

 これは一度救われた報いなのだと、すぐに受け入れている。だが、それでもこの状況が耐えがたいものであることは間違いない。

 広さこそ違えど、ここは里と同じ。自由を奪われ、飛ぶ羽根すら千切らせた世界。

 既に一週間が経過し、ティアは消耗し始めていた。食料は運ばれてくるが、粗悪なパンや水程度のもの。活力を得ることなど、不可能としか思えないものばかりだ。

 弱っていく度、ティアは人間から逸脱していく。皮肉にも、時を追うごとに楽になっていくのだ。

 《星》として通常の人間とは違う法則に生きているからこそ、人間の法則下で生きられないと体が判断すれば、自然と肉体を本物の《星》に切り替えていく。

 五日目までは強かった空腹感は消え失せ、筋肉の減退も完全に停止した。眠ることこそできても、睡眠欲求は完全に消えている。

 人間の危険信号である欲求はなくなり、生存することにはなにも不足していないと体は判断していた。

 《星》とは、そういう存在なのだ。

 そんな彼女の視界──目は見えているが、世界を認識していない──には、幾度となくガムラオルスの姿が写りこむ。

 時代がばらけ、子供の頃から里を抜ける少し前のもの、そうした各時代のガムラオルスがランダムに表れては消えていく。


「がむらん……がむらんに、あいたい」


 弱々しい声で、ティアは呟いた。

 ティアが全く抵抗しないと見た時点で、看守は出て行った。だからこそ、誰もこの言葉を聞いていない。


『刑の執行は来月の頭だ』


 刹那、声が蘇った。

 自分が殺されるまで、そこまで時間はない。せめて最後に会いたいと願っても、この場では会うことさえ許されなかった。

 己の不幸を呪うでもなく、ティアは泣き出した。ここにきて、初めて泣いた。

 そうしていると、急に呼び出しがかかった。外部からの通信が遮断されている牢の中においても届くそれは、紛れもない《天の星》からの通信だ。

 虚ろな目で壁を眺めた後、ティアは応える。


『ティア? 捕まったって聞いたけど、何をやったの?』

「ふぃあ?」

『そうだけど……それで、何をやったの? 事情が事情なら、ライトに頼んで出してもらうけど』


 《星》は世界を管理する存在であり、必要とあれば《皇》を使うことも問題はないとされている。

 ただ、これを何の気もなく言っている辺り、フィアはとても人間社会に適合していない残念な子ということだ。


「ううん、いいよ」

『いいって言われても……それで、いつ頃出てこられるの?』

「らいげつの、あたま」

『ずいぶん長いわね……でも、とりあえずは出てこられるのね』

「には、さばかれるんだって」


 フィアは心理透視を行える。それがいくら遠隔であるとも──それも、相手が気心の知れた《星》であるというのだから、造作もないことだ。

 だからこそ、この裁きという言葉の意味をすぐに察する。

 処刑だ。


『待って。それは天の星として許可できない。あなたが罪を受け入れる気だとしても、世界にとって風の星の損失は許されないわ』

「でも、そうしないと、ともだちをまもれない」

『友達って──ふざけないで! あなたはただの人間とは違う。星は個人を縛る鎖じゃないけど、それでも役目を勝手に放擲することは許されないの。世界を管理するという役目は他でもない、神から与えられたものだから』


 そこまで言った後、フィアはティアの友達を知った。

 自分の娘でもある、エルズだ。あの後の消息はあえて調べていなかったが、この時、初めて冒険者として生きていることを知った。


『……友達の為に、冤罪を被るつもり?』

「わたしがたすかったのも、そのこのおかげだから。いちどひろったいのちをかえすだけ」


 次第に細くなっていく声を聞き、フィアは不安になっていく。


『あなたの考えを尊重することはできない』

「ふぃあ、いじわるだなぁ」

『絶対に間に合わせるから』


 そう言い、フィアは通信を切った。

 しかし、ティアの目にはなにも映っていない。硝子球の瞳で天井を眺め、もう一度呟く。


「がむらん、あいたいよ」


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