17β
ティアがなかなか帰ってこないと心配しながらも、信頼を示す為にエルズは大人しく宿屋で待っていた。
しかし、一週間が経った時点で、その姿勢が変わる。
「ティアが捕まった? どうして、ティアが?」
「いえ、詳しくはこちらにも知らされておらず……」
ギルド本部の役員からはその答えだけで、理由などが聞かされなかった。
酒場などで聞き耳を立てると、大量虐殺をおこなった、という噂が入ってくる。これは本部が意図的に広めた噂なだけに、エルズにはその意味が理解できた。
「(大量虐殺? ……それってまさか、あのこと? でも、なんでティアが)」
エルズは死に対しての忌避感が一切ない。ただ、それでも善大王の影響で正義に反する行動は行わないように戒めていた。
何度も言うが、敵と判断した者を殺すことは、つまり正義に反しないのだ。一般常識にある、殺すという行為の罪を理解していない。
だからこそ、殺したという自覚はある。ただ、それを問題とすら思っていないのだ。
しばらく考え、エルズはどうするべきかを考える。
自分の行動によってティアが捕まった、それをわからないほど考える力がないわけではないのだ。
自首し、ティアを助けるか。それとも、ティアを救い出すべきか。
「(それじゃ駄目……きっと、私が自首してもティアを解放する気なんてない。ティアを救いだしても、また来られたらどうしようもない)」
堂々巡りに陥った瞬間、脳裏に二人の姿が映った。
善大王とフィア。エルズの、義理の両親だ。
善大王に頼れば、この件をもみ消せるかもしれない。そうでなくとも、ティアを保護するくらいのことは可能なはずだ、とエルズは考えた。
しかし、それはすぐに霧散する。
「(親離れしたのに、パパとママに頼ったら格好がつかない。自分の力でどうにかしなくちゃ)」
ゆっくりと顔を上げたエルズの瞳には、暗い光が宿っていた。
「(法は神が作ったものじゃない。なら、ティアを裁こうとする本部を消せばいいんだ)」
自分には、それをするだけの実力があると自負していた。
今のエルズには、そうした後の世界が見えている。自分がそうした時に起きるであろう現象、そうした後にある──平和な日々が。
大量虐殺をおこなったのは、結果として悪かった。だが、悪人を殺すことは未だ問題となっていない。
無実のティアを捕まえるような悪人は、消されて当然。
エルズの中で、完全に思考が定められた。また、同じ過ちを繰り返す。




