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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
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悪しき者と風の少女

 《風の大山脈》前に到着し、馬車は足を止めた。山道はさほど険しいわけではないのだが、無理をさせてやるのも可哀想だ。

 馬車から降り、雷の国行きに設定してから、俺は山を登りだした。

 世界最大の山脈、と聞いていたが、雰囲気的には山とは思えない。それこそ、大陸を無理やり持ちあげたような感じだ。

 山の大きさは一国の領土に匹敵しているからか、斜面はさほど急ではない。ただ、頂上は遥か彼方、移動に何日――十何日掛かることやら。

 ただ、今日の俺には関係ない。何といっても、シナヴァリアから書いてもらった地図があるのだ。

 そして、その地図曰く、里があるのは中腹よりももっと下。そこまで深い場所でもない。

 早朝に到着し、そこから歩き始めてからしばらく経った。

 太陽は真上に昇り、昼も昼という時間になっている。目的地までは何日くらい掛かるだろうか。

 ラグーン王に頼み、背嚢に食料と水を積んでもらっている。節約すれば四日はどうにかできそうだが。


「侵入者!? 侵入者だよね」


 幼女の声が聞こえ、俺は森の中に目を向ける。体温が空気を伝播し、一瞬で隠れている幼女の居場所を晒しあげた。


「俺は光の国から来た善大王だ。君達の族長、ウィンダートに会いたい」


 シナヴァリアの話が正しければ、これでどうにかなるはずだが。


「侵入者は倒すから! このティアちゃんが平和を守っちゃうから」


 隠れていた幼女は姿を現し、こちらに接近してくる。

 緑色の髪と、それと同色の瞳。間違いない、《風の一族だ》。

 見た目から判断して十歳か。程良く筋肉が付き、引き締まった体は健康的でとてもいい。

 左右にある三つ網のおさげが走りに合わせて踊り、嗜虐心をそそらせた。もちろん、俺の思ったようなことはしない。

 ただ、頭からは特徴的なアホ毛が生えている。最近、こんなのを良く見ている気がするぞ。

 一発目に飛び蹴りが飛んでくるが、これをきちんと回避。ただ、ティアという幼女はそこで止まらず、空中で宙返りをして俺の肩に蹴りを叩きこんでくる。

 だいぶ予想外の動きだったが、刹那に筋肉の動きが変化したことで攻撃は読めた。胸部に踵が掠りこそしたが、どうにか避けた。


「やるじゃん!」

「俺は族長と話がしたいんだが」

「よそ者を入れちゃ駄目って言ってたから、駄目っ!」

「はぁ……まぁ、そうなんだけどな」


 幼女に手をあげるのは癪だが、この子を倒さないことには前には進めない。

 俺は意識を覚醒させ、戦闘体勢に移る。さすがは戦闘民族か、ティアもそれに合わせて闘気を漲らせてきた。

 ティアの戦闘スタイルは変幻自在の徒手空拳。術さえ使われなければ、俺の相手ではない。

 聖堂騎士も驚く程の凄まじい速度で連続攻撃が放たれるが、幼女に対しては未来予知にも近い観察を行える俺からすれば、さほど難しい攻撃ではない。

 蹴り技が多いこともあり、動作が大きい。ただ、発動の早い拳打を攻撃の間に含めてくることで、その隙を最大限に削っていた。

 子供でもここまでやれる辺りは、伝説の戦闘民族の名に偽りなしといったところか。

光の国からしても、元聖堂騎士の俺からしても、《風の一族》に対する興味はある。

 なんでも、初めて聖堂騎士となった者は女だったらしく、さらに《風の一族》だったというのだ。

 女騎士カルマ、という本は色々な媒体で広がり、この世界で知らない者はいない程に有名だ。俺も幼少期には見ている。


「なっ、何がおかしいの?」

「いや、昔は憧れていたからな、期待通りで満足しているって感じか」


 案の定、意味は理解されていない。ただ、それでいい。

 しかし、あれほど攻めてきても全く疲れていない。俺もそこまで疲労していないにしても、長期戦を強いられると色々と面倒だ。

 この後は山登りが控えている。さっさと終わらせてもらうか。


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