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「これで、とりあえずは完了、ですわね」
通信術式を切ったライムは退屈そうに、岩に座り込む。
まさに今、エルズと通信していたのはライムだったのだ。
彼女が何故、エルズを守ろうとしたのかは分からないが、少なくともそこに何かしらの好意があることは間違いない。
一度ため息をつくと、再び通信術式を展開した。
「わたくしですわ」
『お前か。何のようだ』
先ほどの声とは違う、情け容赦ない冷酷な声。本物の、夢幻王だ。
「エルズちゃんの件ですが……暗殺に失敗したみたいですわね」
『彼奴に闇の国の存在は知れたか』
「まぁ、相手があの天下の善大王様ですので、それは確定的ですわね。ですが、エルズちゃんが明かしたわけではありませんわ」
『知られれば同じだ。消せ』
夢幻王は自分の目的を最優先にしている。だからこそ、本来ならば重要視にすべきエルズさえも、平気で切り捨てようとしていた。
「善大王様に、闇の国へと何かを仕掛けようとする気はありませんわ。むしろ、エルズちゃんの働き口を残す為に、手は出せませんわね」
『あり得んな』
「善大王様は子供好きですから……良くも悪くも、エルズちゃんは子供として家族に溶け込むことに成功した、ということですの」
訝しむような唸りを発した後、夢幻王は静かに言う。
『それで、お前がそれを言ってくるからには、なにかの思惑があるのだろう』
「ええ、エルズちゃんは《風の大山脈》に向かわせましたわ。件の部族の情報収集役として」
『……成功できると思うか? 既に、諜報部隊から数名を送っているが、全滅だ』
来るべき日の為、不確定要素の《風の一族》について夢幻王は調査を行っていた。結果からいえば、一人も成功していないのだが。
「エルズちゃんならばやってくれますわ。少なくとも、この任務を成功させた場合は罪を不問に」
『成功すれば、な』
そこでライムは通信を切り、口許を緩める。
「あとは、最後の締めですわね」
ライムが三回目の通信術式発動をしようとした瞬間、周囲が暗闇に包まれ、全ての情報が認識できなくなった。




