20β
「起きたのね」
「……情けない話だけどね」とフィア。
「あの状態から復活、本当に化け物じみているわ」
「ええ、自覚している」
《星》はそもそも、人類種とは根本的に違った存在ともいえる。
周囲にマナが存在していれば、それを吸収して自動的に肉体を修復することができるのだから。事実上、自分の管轄内であれば《星》は死なない。
実際、敗北の一歩手前までいったティアも、こうした能力で自己再生していた。勝負の最中は礼儀として発動していなかったらしいが。
しかし、エルズは思った以上に驚いていない。今の彼女は、それ以上におかしなものをみているから、だろう。
「攻撃しないの?」
「ええ、だってライトが戦っているんだから。私の戦いは終わったから、あとはライトの戦いよ」
「……馬鹿みたい」
「ええ、馬鹿よ。親馬鹿よ……ライトも、私も」
自信満々に、恥じる様子も見せずに言うものだから、エルズも笑えずに無表情の反応を示す。
「なんで、あんな馬鹿なことをしているのかしら」
「分からない? ライトは私と同じで、アイを救おうとしているのよ。大事な、大事な娘だから」
軽く笑い、エルズは黒い闇の空間の方へと目を向ける。
「どうして、あなたはあの男のことを信用できるの? あのようなことをされて」
「アイがそう言ってくれているから」
「は?」
「ライトはきっと、アイを試していたんだと思う。もしも、私があんな目にあっても何も思わない、根っからの悪人だったら──たぶん、ライトもこんなことはしなかったと思う」
フィアの読みは当たっていた。善大王はエルズが自分を狙う刺客だと、はじめから分かっていた。
明確に判断がついたのが誕生日の時。ただ、なんとなく感づいていた程度ともなれば、出会いの日からだろう。
記憶を失っている間は素直に楽しみ、記憶を取り戻してからは、アイという面が本当に偽者なのかを探った。
結果から言うに、エルズの根は決して腐ってはいない。それが分かった時点で、善大王は救うべきだと理解した。
「くだらない話ね」
「でも、私はそんなライトが好き」
「……その善大王は、もう死ぬわ」
「ううん、絶対死なない。ライトはきっと、アイに言ったような宣言を成功させて、戻ってくるから」
馬鹿正直に信じているフィアをみて、エルズは眩しさを覚えた。
夜明けはまだ遠い。太陽も、今はまだ姿を隠している。
目を軽く擦り、地面に座りこんだエルズは善大王の様子を探り出した。




