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アカリの背後からは魔力が感じられる。
導力の精製、術の発動、それらの際に副次的に放出される力、それが魔力。
これを判断できれば相手の攻撃気配などを察知できるわけだが、俺クラスになれば術の規模まで判断することも可能。
おそらくは中級、人間を葬り去るには十分すぎる火力だ。
「消えるんだよ、変態野郎! 《火ノ六十番・火柱》」
「《光ノ五十五番・日壁》」
火柱がこちらに向かってくるが、俺の発生させた光の壁がそれを打ち消した。
術の規模、防御能力などを考えればこちらの方が下だ。しかし、相手の術の威力が拡大しきる前であれば、打ち消すことも可能。
いわゆるジャストガード、俺でも成功確率は八割程度だ。
「あたしの攻撃を低順列で防いだ? ……あり得ない、偶然が何度も続くと思うんじゃないよ!」
《魔導式》の展開に合わせ、俺も刻んでいく。
相手は中級の練度をあげているらしく、俺よりも組み上げていく速度が早い。また、少し遅れるか。
「今度はどうするんだい!? 《火ノ六十番・火柱》」
「《光ノ五十五番・日壁》」
再度ジャストガードを決め、術を打ち消す。
「大人しく退散してくれないか? 俺は今、お姫様とお楽しみ中なんだよ」
「くっ……《選ばれし三柱》のあたしに……」
《選ばれし三柱》……一体何のことだろうか。いや、幼女以外の奴に興味を持つだけ無駄か。
「俺はライカちゃんを城に連れていく。それで満足だろ?」
「犯罪者を逃すと思う? こうなったら、本気で潰す」
アカリから強い殺気を感じた。それと同時に、凄まじい魔力が放出され、空中に赤い《魔導式》が刻まれていく。
規模が上級――それも二百番台クラスだ。この一区画毎焼き払う気か。
咄嗟に《魔導式》を展開し、術発動の妨害を行おうとするが、アカリは同時並行で別の《魔導式》を構築し、こちらの術を相殺してくる。
このアカリとかいう女、術者としてはかなりの使い手だ。俺が知る限りの人間で言っても、上位に入ってくる。
俺の《魔導式》展開はかなりの速度のはずだが、アカリは上級術規模を展開しながらも、こちらの速度についてきている。
これ以上長引くと厄介か。くそ、奥の手を使うしかないな。
対抗するように、俺も《魔導式》の同時展開に移行する。速度自体は落ちてくるが、それでも手数は数倍に膨れ上がった。
防御に足を回さずに済むからか、アカリの上級術は完成に近づいてしまうが、これでこちらも結界を張ったのも同然だ。
「防ぎきれないだろ? 大人しく《魔導式》を停止しろ」
「あんた馬鹿かい? あたしの《魔導式》はあと数秒あれば完成する。こっちにそのしょぼいのを当てられても、あたしの上級術を止めることはできないねぇ」
「……だろうな、俺の手は読まれていると思った。だが、本気でやりあうなら――俺もお前を殺すことになるぞ」
アカリは鼻で笑い、《魔導式》を完成させた。
「《火ノ二百番・火炎――》」
すっ、とライカが俺達の真ん中に入り、アカリを睨む。
「一般人相手に力を使うのは見逃せないわね」
「なっ……その変態を倒してあげようとしたんじゃない! 感謝して欲しいところだよ、まったく」
「確かに、この善大王はとても変態な男だけど、それでも――」
どうやら、ライカちゃんは俺のことも怒っているらしい。
「善大王……へぇ、その格好どっかで見たと思ったら、そうかい。なら、一般人じゃないねぇ」
「今日は大人しく退きなさいよ。これは命令よ」
「……ハッ、ちびっこ姫様の癖に命令ねぇ。まっ、それもいいけどさ」
発動寸前の《魔導式》を停止すると、アカリは「命拾いしたねぇ」と言い残し、去っていった。