15
アイは深夜に目を覚まし、善大王の体を揺する。
善大王は眠り、目覚める様子はなかった。
口許を緩め、アイは寝巻きの薄いワンピースをひと撫でし、善大王の上に跨る。
彼女の目的は、厄介なフィアの排除だ。もしも善大王が娘を襲うような屑人間であるとすれば、フィアも見放すかもしれないと考えている。
じっと沈黙し、しばらく乗っていると、アイはそろそろ気づかれないと動き出そうとした。
しかし、何をして善大王のは目覚めることもなく、本人も眠ったまま。
「なんで」
「そりゃ、アイが娘だからな」
驚き、ベッドから落ちたアイを心配し、善大王は手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「夜更かしは父として見逃せないな。早く寝ろよ?」
「分かったよ」
状況について深く追求することもなく、善大王は再度目を閉じた。
気づいているのか、気づいていないのか──彼を知っている者であれば迷うところだ。ただ、アイに限ってはその選択肢は出現しない。
「(察しが悪いみたいだけど……こっちも運が悪いわね)」
翌日、家に戻ってきた二人を心配そうな目で見つめたのは、包丁とフライパンを構えていたフィアだった。
「料理中……じゃないよな?」
「不審者かと思って」
「いや、その装備じゃ無理だろ」
そう言われて怒ったのか、目に付いた岩に向かって斬撃を放つ。
どうしたことか、岩は綺麗に切断され、包丁も真っ二つに折れた。
「わぁあああ! ママすごい!」
「へへん、どうよ!」
「なんてことだ……」
自信満々に胸を張ったフィアの頭に拳骨を放つと、善大王は「いや、包丁を壊すなよ」と冷静な指摘をする。
普通に考えればそうなのだが、包丁で岩を両断するという明らかに異常な現象に触れない辺り、善大王もできる技術なのだろうか。
「それで、どこ行ってたの?」
「えっ? オキシーだが」
「そんな遠くまで行ったんだ……へぇ」
疑惑の目を向けられるが、善大王は後ろめたい部分がないので平然としている。
「それで、プレゼントは?」
楽しみらしく、フィアは明らかに期待しているといった様子で二人を見た。
「はい、これ」
「わぁ、ありがとう!」
受け取ったのは、棒つきのキャンディー一個だけ。誰がどう見てもサプライズプレゼントには程遠いのだが、フィアは普通に喜んでいる。
それも分からないでもない。サプライズとはいえ、アイと違って誕生日ではないのだ。
しかし、だとすればあのような場所まで移動するのに掛かった費用は、このキャンディー一個だけのものだったというのか。
「でも、買いにいくなら一緒に行きたかったなぁ」
「今度は一緒に行こうね」
「ええ、そうね」
一見微笑ましく見える二人を認めながらも、善大王は何か釈然としない様子で書斎へと戻った。
 




