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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
198/1603

14

 昼になり、フィアを起こしたのは善大王だった。アイは、依然眠り続けている。


「もう昼過ぎだぞ」

「……え?」


 目を覚ましたフィアは急いで頭を下げ、キッチンへと向かおうとした。


「朝飯は一人で食べた。昼飯も用意できている」

「……ごめん」

「どうしたんだ? キッチンで料理していても起きないなんて、驚いたぞ」


 子供用ベッドは未だに、キッチンで圧倒的な存在感を醸し出している。

 眠っているアイの横顔を一瞥し、フィアはベッドから起き上がり、食卓へと向かった。

 二人で食事を平らげ、静まりかえった時点でフィアが口を出す。


「昨日、襲撃者が来たわ」

「……どんな奴だ」

「暗くて分からなかった。能力を使う前に逃げられたから、本当に不明……でも、闇属性使いだったことは間違いないわ」


 真面目な話だからか、善大王は茶化さない。

 ただ、襲撃については善大王も気づいていた。ただ、起きる必要がないからこそ、それを見逃していた節もある。


「今日からは家中に防犯の式を刻むから、ライトも手伝って」

「……俺は大丈夫だ。それに、そんなことやっても仕方がない」


 何故、という問いを発しようとした時、アイは目覚めた。


「……あれ?」

「起きた?」フィアは一番槍となる。

「うん……ご飯は?」

「もうできているわ。少し冷えているけど」


 アイはゆったりと起きた後、元気よく飛び跳ねてから食事に手を付けた。

 フィアが姑のように食事マナーを教えたからか、今日のアイは一段と行儀良く食べている。


「(私の教えが生きているのね。ふふっ、ちょっとうれしいかも)」


 上機嫌になっているフィアとは正反対に、善大王はアイに優しい笑みを浮かべながら、思い悩んだような表情を影に潜ませていた。

 食事を食べ終わって早々、珍しくアイが提案をしてくる。


「ぱぱ! 一緒にでかけよ」

「ん? 俺か……いいぜ」

「あれ? あれ? 私は?」


 困惑するフィアを見ると、取り繕うようにアイは続けた。


「ママにサプライズのお返しをしたいの! ……ありゃ、言っちゃった」

「えっ、本当? えへへ、じゃあ期待して待っていてあげる。今のは聞かなかったことにするから!」


 とても子供らしい、隠そうとしながらも本当のことを口にしてしまう浅はかさ。しかし、これに対しても善大王は笑みを浮かべるだけ。

 そうしてフィアが家で留守番の役を受け持ち、アイと善大王は家を出た。

 アイは善大王を先導し、拾った枝を振り回しながら町の方向へと向かって歩き出す。


「アイは町の場所を知ってるのか?」

「ママと一緒に行ったから!」

「へぇ、偉いな」


 近所の村を越え、そこからさらに遠くの町に向かう為に馬車を借りた。

 代金は善大王が支払い、気っ風のいい御者──馬車を動かせるただの農民なのだが──は快活に話をしながら、二人を町まで運ぶ。

 オキシーの町。商人達が自分の城を構えるには絶好の町であり、店舗の数は都市にも匹敵するほどだ。

 一次産業とはまさに無縁の土地。二次産業は少なからず関与しているが、やはり第三次産業の占める率が圧倒的に高い。

 エイツオーの街と比べると規模は小さいが、それでも村よりは遙かに発展していた。


「何を買うんだ? パパには教えてくれよ」

「ママが驚くようなの!」


 小さな公園に立ち寄ると、アイは何気なくベンチに座りこんだ。

 善大王もそれに倣い、彼女の右側に座す。

 公園では子供達が遊びまわり、追いかけっこを繰り広げていた。善大王は久しくそのような光景を見ていなかっただけに、目を奪われている。


「パパは小さい子好きなの?」

「ああ」

「なんで?」

「彼女らは無垢に近い。そして、可能性が失われていない」


 人は年を重ねる毎に可能性を閉ざしていく、と善大王は考えていた。事実、全てにおいて……彼ですら、可能性──進化、成長すること──はなくなっている。

 ただ、善大王は常人を遥かに上回るだけの技術、知識を持ち合わせている為に潰しが利いているだけのこと。

 彼ならば職を変えることも容易だろう──それを選択しないことは明白であり、それこそが可能性の閉塞でもあるのだが。


「アイのことすき?」

「大好きだ」


 口付けを交わそうとしてくるアイ。ただ、それが頬に──家族としてのものならば、おそらく善大王は抵抗しなかっただろう。

 寸前でエルズの胸を軽く押し、距離を取らせた。これで、接吻をすることはできない。


「おマセさんだな。フィアから聞いたか?」

「アイ、パパのことが好きなの」

「……それは錯覚──いや、勘違いだよ。俺は父親であり、父親として愛されていると考えているつもりだ」


 善大王は少女を性的に愛するような、異常性癖者だ。しかし、それでも彼は確たる信念を元に動いている。

 それは、飽くまでも少女の任意を得ることだ。軽いスキンシップ──シアンを失禁させたことは明らかに過剰にも見えるが──などはともかく、交わろうとする時に無理やりということはない。

 件のフィアですら、回数がおかしかっただけで、最初は否定をしてはいなかったので例外でもないのだ。

 乳幼児にもなると手を出しはしないが、三歳などの幼児でも任意さえあれば手をだす。それが善大王。

 そんな一部分に紳士性を持ち、一部に狂気を思わせる思考を持ち合わせていてもなお、彼は身内に手を出す気はないのだ。

 善大王が安易に婚姻関係を取らなかったのもこれが原因、といっても過言ではない。

 自分の子供を作ればいくらでも襲い放題、と浅はかな異常性癖者は思うかもしれないが、彼の場合は娘は娘でそれ以上でもそれ以下でもないのだ。

 それでも、アイは納得しなかったのか、ワンピースをたくし上げて太ももまで露出させる。


「どこで覚えたんだ?」

「パパとママがこういうことしてたから……」


 確かに、善大王とフィアは半年の間に一回だけしている。ただ、一回だ。

 仕事に拘束され、まったく欲求の昇華ができない時、フィアに頼んで一度だけ交わっている。

 まさに夢中になっていた時、さらにアイが目覚めてすぐに眠ったこともあり、善大王はそれに気づいていなかった。


「ママだけずるい!」

「やめなさい」

「なんで! アイだけがのけものはいやだよ!」

「やめろ」


 今の一言だけ、彼の言葉は少女の向けるそれではなくなる。

 それは残虐性や冷酷さの証明などではなく、彼の表情から分かるとおりに──親としての叱咤だった。

 アイは萎縮し、反省するようにワンピースの裾を戻す。


「パパ……」

「怖く言ってごめん。だが、俺はアイのことを考えているんだ」


 しばらくしてから、二人はプレゼントを買いに戻った。

 アイは自分でも納得せず、善大王がそれらしいものを勧めても、それでは駄目だと否定する。

 そうこうしてプレゼントが決まったのは夜。アイが頑固に言うものだから、善大王も帰る時期を逃してしまった。


「さて、どうするか……」

「お馬さんいるかな?」

「たぶんいないな。よし、今日は泊まっていこう」

「ママがいないのが寂しいけど……分かったよ、パパが一緒に寝てくれるなら大丈夫!」

「はは、アイは強いな」


 夜な夜な、寝る準備を済ませた善大王はフィアを抱き上げ、一緒のベッドに入った。


「大丈夫か?」

「うん。あったかい」


 キスをせがむアイに対し、善大王は応じる。今度は、お休みのキスだ。


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