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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
193/1603

9

 ──アイと出会ってから半年後。


「ライト、どう?」


 紅茶とスコーンを執務机ではない、小さな机に置いてからフィアは問う。

 書斎の机に向かい合っていた善大王は、座っている椅子の横に置かれている小さな机を一瞥し、そこに乗せられたスコーンをつまんだ。

 軽く満足した後は紅茶を流しこみ、すぐに机に向き直る。


「どう、ってなぁ……そりゃ帰りが遅いのに不満を出すのは分かるが、仕事送ってくるのは無粋としか言えないだろ」


 シナヴァリアは善大王が二ヶ月ほど帰ってこない時点で、善大王としての仕事をこの家に送りつけるようにしていた。

 全てというわけでもなく、秘匿資料であることからも、配達者は限られる。ずばり言うに、ガルドボルグ大陸の国からは、直接この家に届けられているのだ。

 残る三カ国については依然としてシナヴァリアが担当し、つつがなく事を終えている。

 こうなれば近所も当然、と持ってこられた資料の中で重大な案件には、善大王が直々に出向くことも多くなった。

 そういう時、大抵はフィアとアイが留守番をするのだが、稀に二人がついて来ることもある。

 貴族や長はそうした子供二人組を見て、例外なく驚くという流れ。娘──これは半分正解だが──、妹、情婦と伸びては行くが、誰も答えには辿りつかない。

 それはそのはず。この三人を見て、二人が親で一人が娘だなどと思う者がいるはずもない。

 結局、この半年の間は善大王として働く傍ら、アイの父としてガルドボルグ大陸内の国を巡りもした。

 半年、この期間はある意味で大きな影響を持っている。


「アイと出掛けてきていい?」

「どこに?」

「近くよ」

「じゃあ俺も行く。丁度仕事も片付いたところだ」


 フィアは苦そうな顔をした後、目線を逸らしてから言う。


「二人だけで行かなきゃだめなの。それと、ライトにはお願いがあるわ」

「……お願い?」

「えぇ」


 短い説明を聞き、善大王は納得した。


「ライト、もしてかして忘れてたの? あなたが言ってたのに」

「忘れてたわけではないが……いや、子供の気持ちは子供が一番知っている、だな。それでいこう」


 子供と呼ばれたことに不満を覚えながらも、フィアは書斎を後にする。

 一人残された善大王は机に向き直った。片付けたとは言ったが、仕事はまだ残ってはいるのだ。

 ただ、急を要するものは全て処理し終えている。後は──フィアの要求を受けるだけだ。


 リビングに出ると、準備をしているフィアとアイの姿が目に入る。


「パパ!」


 駆け寄ってくるアイを抱き寄せ、善大王は頬を口付けをした。朝から篭っていただけに、今日初めて会ったことになっている。所謂、おはようのキスだ。


「ママに心配掛けるんじゃないぞ」

「うん! パパはお留守番だよね?」

「ああ、寂しいけどな。その分、きーっちり楽しんでこいよ」

「あったりまえじゃん!」


 フィアとアイコンタクトを行い、善大王は出発していく二人を見送った。


「さて、俺は仕事をしなきゃな……」


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