8β
「どこにいくのお?」
「近くの村よ。かなり小さいから村って気もしないけど」
フィアが能力を使って調べ上げた情報だが、どうにも人口は十人、数組の家族が集合した村だ。
一応は貨幣経済を利用しており、旅の冒険者が宿泊、商品を購入をする施設も少なからず用意されていた。
小さな店先に並んだいろんな花──ではなく、いろいろな果実などを二人は眺める。
果樹園があるような村ではない──一応十数本は生えているが──為か、果実の大半は近くの森で取れるものだ。実質原価ゼロだとしても、旅人からすれば食料の調達は命綱となる。
もちろん、主産物である麦などの穀物も豊富に取り揃えられており、フィアはすぐにそちらへと注意を向けた。
「わぁあ! おいしそ」
「(カボチャとトウモロコシを買って、スープにでもしようかしら。外で焚き火して、そこで焼き野菜にして食べるのもいいわね)」
調理スキルを手に入れたからか、フィアの目線は主婦のそれに近付いている。
果実に魅力を覚えてはいるのだが、どうにもそれ以上に料理の方が気になるようだ。
「お嬢ちゃん達は姉妹かい?」老婆は問う。
「いえ……」
「ママ! わたしアイ!」
ママと言った時点でフィアを指し、老婆は困惑した。
すぐにままごとの延長と判断し、優しい笑みを浮かべてから赤い果実を二つ差し出す。
「食べてごらん、おいしいよ」
「わーい! ありがとー!」
手を伸ばしたアイの肩を叩いてから静止を促し、フィアは注意するようにアイの目を見た。
「こういうのは御代を払ってからもらうの」
「おだい?」
「お金の──これのこと」
手に持った銀貨を見せると、アイは納得したように頷き、フィアの手からそれをひったくる。
「おばあさん、はい!」
「いや、いいんだよ。こんなところまで来てくれたんだから、サービスさ」
「え? いいの? やったあ!」
さっさとりんごを受け取ったアイは喜んで食し始める。
フィアはそれに続いて、会釈してから受け取り、齧りついた。
「おいしー!」
「うん、おいしい」
りんごを食べ終えると、フィアは購入品を指定していき、最後にはアイに支払いを行わせる。
初めての行動なだけに、アイはそれだけで楽しそうにし、大きめのトウモロコシ四つを受け取って胸に抱えた。
カボチャや果実類を背嚢いっぱい──子供の体格には少し大きすぎる──に詰め、フィアが背負うことになって買い物は終わる。
コアルとの修行の結果か、かなり重いはずの荷物も苦もなく背負い、フィアは手を引いてアイと共に帰路についた。
ずいぶんあっさりしているように見えるが、この村を訪れることは決して少なくない。それを分かっていたからこそ、散策の楽しみを敢えて取っていたのだ。
帰り道の最中、アイはフィアに語りかける。
「パパなにしてるかなぁ」
「さぁ、昼寝でもしてるんじゃない? さすがにこんなところじゃ外で遊べないだろうし」
「遊べないなんて、パパいやじゃないかな?」
「いやだと思うけど、ママからすればその方がいいかも」
アイは知らない。フィアの言う遊びが幼い少女との肉体的な交わりであることを。
もちろん、フィアとしても教える気はない。フィアとしても、知りたくはなかったのだから。
さて、親として回答したはいいものの、彼女も善大王が何をしているのかが気になりだす。
「(家事──はほとんど片付けてたし、農業するとは思えないし……一人で変なことしてないといいけど)」
善大王が欲望の発散を一人ですることは少ない。というよりも、ほとんどない。
ただ、まったくないと断言できるほど少ないわけでもなく、そんな場面に出くわすかもしれないという懸念が生まれていた。
到着したらノックしよう。そう考え、フィアは心配しながらも歩みを進める。




