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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
183/1603

偽りの関係 真実の想い

「では、お願いします」

「ああ」


 積み上げられた書類を一瞥し、善大王は去っていくシナヴァリアの姿を目で追った。

 善大王が善大王(・・・)になり、既に二年と半年ほどが経っている。もともと要領がいい善大王だが、ここまで経験を積むと仕事の問題はなくなってくるのだ。

 この数ヶ月間の彼はそれまで以上に励み、シナヴァリアすら驚くほどの躍進を見せている。

 一度は問題になった鉱物問題についても、火の国の援助による一時的延命──二、三世代は持つ延命だが──を良しとはせず、地質に詳しい者を集めて鉱脈を発見するに至った。

 優秀な専門家よりは見劣りするが、善大王もその集団に加わっている。彼の場合、全体的に能力が高いこともあり、総合的には専門家を上回る成果を出していたのだが。

 かくして、現状ならば四、五世代は鉱物に困らないという状況に持ち直し、善大王の雷名は他国にまで轟くことになる。

 もちろん、内政面などでも動きを見せており、農業における近代的な手法の導入、酪農では品種改良の促進にも努めた。

 こうした新しい動きは忌避されるのが世の常ではあるのだが、善大王は最前線で働いている者と知識の共有ができる程度の能力──第一次産業の娘と関わりを持つ為、身に付けたものらしい──と柔軟な思想を持っていた。

 一国の王、《皇》の一人がわざわざ生産者側の会合に参加するなど、かなりの異例なことではあった。

 だからこそ、畏怖というよりは、敬意の意味でこの革新的な制度も受け入れられている。

 今の光の国にとって、善大王はなくてはならない人物だった。彼に意見を求める為に訪れる者も、かつての比ではなく増えている。


「うむ……」


 半分程度を処理し終え、善大王は椅子の背に寄りかかった。

 小休止の予定だったが、ノックが聞こえてきた時点ですぐに姿勢を戻す。


「どうぞ」


 言うと、来客はなにも言わずに入ってくる。ただ、善大王は咎めはしなかった。


「ライト、お仕事はどう?」

「まぁまぁだ」


 サンドイッチとティーポット、ティーカップを乗せた銀の盆を持って入ってきたのは、フィアだった。見た目は相変わらず変化なし。

 お茶もサンドイッチも、もちろん彼女の手作りだ。

 ミネアとの修行をきっかけに、家事をこなすだけの実力を見に付け、今ではこうして善大王を支えている。

 善大王はサンドイッチに口をつけると、満足げな表情を浮かべた。


「本当にうまいな」

「そうでしょう!」フィアは胸を張りながら言う。

「ま、可愛げがないうまさだけどな。少しへたっぴなくらいの方が愛らしいものさ」

「えーライトの為にいつも頑張ってるのに」

「いや、ありがたいよ」


 二、三口食べると、善大王は再び書類に向き直る。

 フィアとしても、夕方までは彼と遊ぼうとはしない。昼間に来る時はこうした、彼を労う為だけだ。


「じゃあ、私はいくね」

「どっか出かけるのか?」

「うん。ちょっと散歩」

「夕方には帰ってこいよ」


 頬を膨らませ、フィアは善大王の傍に向かう。


「子ども扱いしないでよ!」

「いや、ははは……今日はディナーでも行こうかと思ってな。最近はなかなか付き合ってやれないから」

「えっ、ディナー? 高いのいっぱい頼んじゃおっかなぁ」

「ま、ほどほどにな」

「うん、分かってるよ。私はライトと一緒にご飯を食べられるだけで満足だもん」


 そう言い残し、フィアは去って行った。


「よし、じゃあ頑張るか」


 気合を入れなおし、善大王は仕事に励み始める。


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