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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
165/1603

11

 一方、ヴェルギン宅にてフィアを待つミネアは苛立っていた。


「フィア、光の国に帰ったのかしら」

「ヴォーダンの話によると、善大王と一緒に宿屋に泊まったと聞いたがのぉ」


 苛々していたミネアに声をかけたのは、この家の主であり、彼女の師匠でもあるヴェルギンだった。


「それは、まぁ知ってます。行きましたから……ここに来るまでに何かあったのかしら」

「どうだろうか、心配ならば迎えに行ってやれば良かったのにのぉ」

「だって……フィア、怖いですし」


 その言葉に対して、ヴェルギンは何も答えない。ただ、呆れたような動作をミネアにも見えるようにしていた。

 もうこないのではないか、と思ったミネアは机に突っ伏した。

 フィアがいつ来るか分からなかった為、本日は早朝から起きていたようだ。それによる眠気の上昇がこの行動の原因か。


「むにゃむにゃ……シアン」


 本棚の整理をしていたヴェルギンはミネアの寝言を聞くと、寝室へと向かい、毛布を一枚取ってきてから彼女に掛けた。


「(火の国と水の国……当代のフォルティス王があの様子だと、近いうちに関係は破綻するかも知れんな……)」


 火の国と水の国は昔から友好関係にあった。

 対属性の国家というものは相性が悪そうにも思えるが、実際はむしろ良いといえる。

 対抗属性はつまり、敵に回せば厄介になるという性格がある為に、友好関係を結んでおけば安心という考えは常識とまで言われている。

 ただそれだけではなく、水の国の手が一切回っていない国家と言う意味で、火の国は厄介だったのだろう。

 不干渉を決め込む《風の大山脈》は初めから国交の外に置かれている。雷の国は始祖が水の国の出身であり、それが大昔でないことからも関係性は強い。

 ただ、火の国はそうしたコネクトがない。身内的な考えで平和に過ごせるような存在ではないと危惧したからか、大昔に友好を結ぶことになったのだ。

 古くから続く関係の崩壊。そのきっかけとなるのは、現フォルティス王が文化よりも武力に特化していく過程で生まれる、両国の軋轢だろう。


「(工芸品の依頼が激減し、武具の依頼が数十倍にまで膨らんだ辺り……あの若造は戦争でもする気かもしれんな)」


 ヴェルギンは無垢な少女の寝顔を捉えながらも、今後のことを憂いていた。

 それからずいぶん時間が経った頃、待ち人は現れた。


「すみません、フィアです。ミネア──ちゃんはいますか?」

「ああ、ミネアはおるぞ」


 フィアは用心深く警戒してから、家に入った。

 入った直後、フィアは物珍しそうに部屋のあちこちを確認していた。

 火の国の一般家庭を見るのはこれが初めてであり、質素でこげ茶色をした木材の家も、文化の違う織物や飾りも、全てが新鮮に見えたのだ。

 それを見ていたヴェルギンは目を細めながら、ゆっくりと近づく。


「天の星……ここではフィアというべきか?」

「(私のことを知っているってことは、この人も……)」


 天の巫女、天の国の姫という名前で彼女を呼ぶ人間は少なからずいる。

 しかし、天の星ともなれば、世界でも何十という人間が知っているという程度だ。

 それは、天の星という名の意味を知るのが、《選ばれし三柱(トリニティア)》くらいしかいないだからだ。

 同類同士の干渉というと、仲良しな者の触れ合いのようにも思えるが、実際はそんなことはない。

 そうならないのは、《選ばれし三柱(トリニティア)》という者達が自分以外の同類を基本的に敬遠しているからだ。

 その敬遠の形が悪い方向で変化すると、消し去ろうとし始める。自分に匹敵する存在への恐怖があるのだろう。

 それが故に、フィアは内心でヴェルギンを恐れていた。彼もそんな都合の悪い人間を消す存在かもしれない、と。


「ほぉ、最近の天の星はそのような服を好むんじゃな」

「えっ、服?」

「服じゃよ」


 フィアが貼り付めていた緊張の糸は引きちぎられた。

 この男は安全な人間、少なくとも同類狩りをするような危険性を持ち合わせていない。それを今の会話で判断した。


「これはライ──善大王から貰ったの」

「なるほど、善大王はこのような娘が好きなのか。通りでコアルにまったく反応しなかったわけだ」


 ヴェルギンはしばらく前の善大王に抱いた疑問を解消してか、大声で笑い出した。

 その様子をみたフィアは、ヴェルギンを明朗快闊な人だと判断し、やっと緊張感を解くことができた。


「それで、ミネアちゃんは」

「ミネアでよい。いつもそう読んでいるんじゃろ?」

「あー、はい。ミネアはどこに?」

「ミネアならそこで寝ておるよ。いやはや、すまんのぉ……でも、怒らんでやってくれ。この馬鹿弟子はオヌシが来るのを朝からずっと待っていたからのぉ」

「朝、から」


 自分が呑気に寝ている間、ミネアがずっと待っていた。そんなことを知ってもなお何も思わない程に、彼女の常識は崩壊していない。さらにいえば、それで罪の意識を覚える程度に良心も芽生えはじめている。

 がっくりと落ち込むフィアを見かね、ヴェルギンは声を掛ける。


「なになに、オヌシが悪いわけではない」

「でも……」

「そう思うのであれば、何もなかったかのように接してやってほしいのぉ。そっちの方が、ミネアも安心する」

「はい」

「よし、じゃあさっさと起こすかのぉ」


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