表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1603/1603

19y

『お前の願いを言え』

「そんなのないよ……もしかして、あたしを死なせない為に言ってくれてる?」

『……』


「でも、もういいの」


 アルマはもう自分の終わりを見ていた。

 だからこそ、もはや願うことなどなかった。

 叶えうる願いなど、存在していなかった。


 あるのは贖罪だけ。善大王とフィアを死なせながらも、自分だけが生き残った罪。

 彼女はそれを贖うように、今まで残りの寿命を生き残った人間に費やしてきた。

 以前の無償の愛などではない、人間らしい贖罪の行為だ。


『願いを……言え』

「だから……」


 面倒だからと声を遮ろうとするが、アルマは空を見上げ、ぼそっと呟いた。


「叶えて欲しい願いがあるっていうなら、それは死んだおにーさんと会うことだけ。きっとそれは……叶わないけど、もういいの」


 アルマは自分が死後、先代善大王と会えないことをよく知っていた。

 そもそも、死後の世界がそういう類の場所ではないと、よく知っていたのだ。


『それが、願いならば……叶えられる』

「……本当?」


 笑うように、彼女は言う。


『私が、その善大王だ』


 アルマはしばらく黙っていたが、あまりにおかしな返答だからか、笑い出した。


「なにそれ」

『私は魔界に近づきすぎた。封印をしたあの時、私の魂のほとんどは魔界に呑まれ、そこで生き残る為に戦うことを強いられた』

「……」


 あながち嘘とはいえない情報だが、それはライムから聞いていればなんとでもなる返答でもあった。


『だが、私は非力だった。あの世界で生き残ることなど、本当はできなかった。……あちらの世界であった吸血鬼の男――エイグがいなければ』

「……だれ?」

「生き残る為、私はその男の肉体を譲り受けた。だが、それであっても……生き残るのがやっとだった」


 この世界で屈指の使い手であった存在であろうとも、あちらの世界に渡ってしまえば、有象無象……どころか雑魚も同然なのだ。

 魔界で生きていた姿が、芋虫だったとしてもおかしなことではない。


「……」

『謝ろう……私は君の気持ちに気付くこともできなかった』

「……」

『私は君のことが好きだったよ、アルマ。全てを知った今なら、こういった方がいいかな。あい――』

「励ましてくれてありがとう。これですっきりして、逝けるよ」


 魔物の甘言など聞くものか、という態度ながらも、彼女は純粋に感謝した。


「そんないい魔物なのに、巻き込んでゴメンね」

『……大丈夫。君がそう決めたなら、一緒に行こう』


 アルマは結局信じないまま、最後に最高の笑顔を浮かべて詠唱した。


「――《星滅(ロストスターバースト)》」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ