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『お前の願いを言え』
「そんなのないよ……もしかして、あたしを死なせない為に言ってくれてる?」
『……』
「でも、もういいの」
アルマはもう自分の終わりを見ていた。
だからこそ、もはや願うことなどなかった。
叶えうる願いなど、存在していなかった。
あるのは贖罪だけ。善大王とフィアを死なせながらも、自分だけが生き残った罪。
彼女はそれを贖うように、今まで残りの寿命を生き残った人間に費やしてきた。
以前の無償の愛などではない、人間らしい贖罪の行為だ。
『願いを……言え』
「だから……」
面倒だからと声を遮ろうとするが、アルマは空を見上げ、ぼそっと呟いた。
「叶えて欲しい願いがあるっていうなら、それは死んだおにーさんと会うことだけ。きっとそれは……叶わないけど、もういいの」
アルマは自分が死後、先代善大王と会えないことをよく知っていた。
そもそも、死後の世界がそういう類の場所ではないと、よく知っていたのだ。
『それが、願いならば……叶えられる』
「……本当?」
笑うように、彼女は言う。
『私が、その善大王だ』
アルマはしばらく黙っていたが、あまりにおかしな返答だからか、笑い出した。
「なにそれ」
『私は魔界に近づきすぎた。封印をしたあの時、私の魂のほとんどは魔界に呑まれ、そこで生き残る為に戦うことを強いられた』
「……」
あながち嘘とはいえない情報だが、それはライムから聞いていればなんとでもなる返答でもあった。
『だが、私は非力だった。あの世界で生き残ることなど、本当はできなかった。……あちらの世界であった吸血鬼の男――エイグがいなければ』
「……だれ?」
「生き残る為、私はその男の肉体を譲り受けた。だが、それであっても……生き残るのがやっとだった」
この世界で屈指の使い手であった存在であろうとも、あちらの世界に渡ってしまえば、有象無象……どころか雑魚も同然なのだ。
魔界で生きていた姿が、芋虫だったとしてもおかしなことではない。
「……」
『謝ろう……私は君の気持ちに気付くこともできなかった』
「……」
『私は君のことが好きだったよ、アルマ。全てを知った今なら、こういった方がいいかな。あい――』
「励ましてくれてありがとう。これですっきりして、逝けるよ」
魔物の甘言など聞くものか、という態度ながらも、彼女は純粋に感謝した。
「そんないい魔物なのに、巻き込んでゴメンね」
『……大丈夫。君がそう決めたなら、一緒に行こう』
アルマは結局信じないまま、最後に最高の笑顔を浮かべて詠唱した。
「――《星滅》」




