17y
――光の国、ライトロードにて……。
「はい、次の方どうぞ」
アルマは以前の事件の後始末をしていた。
そう、魔物に変異した赤子の対応だ。
これ自体は別段彼女でなくとも十分行えることではあるのだが、なにぶん絶対に安全と言える診療ではないのだ。
もう既に大半の子供の変異が治っていることは確認されているが、あの時に多くの医療従事者に被害が出たのも事実。
その上、アルマは魔物の力を未だ尚宿しているという、実力としても立場としてもうってつけの人間として選ばれたのだろう。
彼女からすれば、これは紛れもない無償の奉仕だった。
自分の寿命が残り少ないというのに、こうした行動を行うなど、並大抵の人間ではできないだろう。
それはつまり、今のアルマにとっても耐え難いものである、ということを指している。
「アルマ様、こんにちは」
「こんにちは……調子はどう?」
やってきたのは、サクヤだった。
彼女は女官の仕事を休み、今は普通の母親である。
とはいえ、アルマに対する敬意は未だに健在だった。
「ええ、特に問題は――」
アルマは近づき、赤ん坊の顔を覗き込んだ。
「……うん、問題はないみたい」
視診だけで対応を終えたようにも見えるが、彼女の場合は魔物の気配を明確に探ることができるのだ。
それ故、目の前の幼児から魔物の因子を僅かにも感じないことは、見るまでもなく分かっていた。
「アルマ様……一つ、お願いしてもいいですか?」
「なに?」
「この子の名付け親になってくれませんか?」
アルマは唖然とした後、吹き出した。
「あたしに?」
「はい、他でもないアルマ様に」
「やめておいたほうが――」
言いかけ、サクヤの顔に覚悟が宿っていることに気付き、彼女は自身の言葉を止めた。
「……そうだね、キララちゃんで」
「ありがとうございます」
ずいぶんとあっさりしたやり取りだが、アルマは全くもって適当に付けたというわけでもなかった。
名付け親になったからか、彼女はもう一度少女の顔を覗き込み、額を指で突いた。
「……うん、綺麗になるよ、この子」
サクヤは頭を下げ、病室を出て行った。
アルマは目を閉じ、考え込んだ。
「(あの子はきっと、ディックさんの力を引き継いだんだ……というよりも、あの子が来たおかげなのかな)」
《光の門》の中で再会した、ディックの残留思念。
あれは《聖魂釘》が呼び起こしたものだと考えていたようだが、今のアルマは確信をもってそう解釈した。
その証拠に、彼女の体には父親と同じ力が込められていたのだ。
「(あの子にはこれから大変なことがいっぱいあるかもしれないけど、きっと大丈夫……)」
未来が見えているわけではなかった。
しかし、その未来の引き金が自分である以上、そうなるであろう未来を予見することはできた。
「はい、じゃあ次の方どうぞ」




