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船着き場に到着すると、馬車から下りて乗船券を買う。
光の国のあるケースト大陸から、《風の大山脈》のあるガルドボルグ大陸までは海路しかない。ちなみに直通はなく、夢幻王がいる闇の国を経由しなければならない。
なんでも、《嵐の海域》という危険地帯があるせいで行けないとか。
本来ならば光の国の所有する船で行こう! となるのだが、残念ながら大規模航海を可能とするような船は容易に動かせない。そもそも、俺一人がいくだけに使うのは割に合わない。
冒険者も商人も民も、大抵がこの定期船に乗り込み、大陸を渡っている。俺も一介の冒険者だっただけに、その環境に文句があるはずもない。
船に乗り込み、座席につくと俺は眠りについた。
ガルドボルグ大陸の玄関口でもある雷の国までは十数日の船旅となる。念の為に本を持ってきてはいたが、これでも起きていればかなり暇になってくる。
寝て過ごすのが基本。それが冒険者時代に学んだことだ。
ただ、船旅の最中にすることは寝るだけではない。暇さえあれば甲板に出て、幼女などと遊びに興じることもあった。
闇の国に到着したが、特に要件もないので降りることもなく寝て過ごす。
そして、ようやく雷の国に辿りついた俺は、すぐさま船から降りた。
数日間の船旅でなまった体をほぐしながらも、船着き場付近のマーケットに立ち寄る。
雷の国は自由主義であることもあり、即席の露天が散見された。
「ビーフサンドか。よし、これを一つくれ」
「はい、毎度!」
この場所で売られているものは異世界の文化を取り入れていることもあり、変わった食事などが多い。
ハンバーグとレタスを挟んだパン。ここまでヘビーな食事はこの世界には存在しない。
ビーフサンドを齧りながら露天を見て回ると、変わった幼女が目に入った。
「この飴、千個ちょうだい」
「いや、お嬢ちゃん……それじゃ買えないんだけど」
払われている代金はおよそ百個分程度。明らかに値段が足りていない。
茶色のショートヘア、生意気そうな顔。そして、特徴的なアホ毛が幼女。うむ、いいかもしれない。
「ほしいのよ! ほしいのよ! 絶対欲しいわ!」
「ご主人。これで売ってはくれないか?」
代金を支払うと、厄介事から逃げるように大きな木箱を俺に押しつけてきた。
「ちょっとあんた! それあたしが買う予定だったのよ!」
「分かっているさ。お家まで運んであげるよ」
「えっ?」
「飴が欲しいんだよね? うん、あげるよ」
そこまで言うと、茶髪幼女は笑みを浮かべた。
「ふぅーん、良い心掛けじゃない。いいわ、案内してあげる」
思った通り生意気な性格だが、それもいい。飴をダシに一発ちゃちゃっと済ませるか。
馬車探しはとりあえず気晴らしを済ませてから。船旅の後には準備運動を、ってね。
木箱を運んで進んでいくと、なぜか幼女は城下町の中心側へと先導していく。あの様子からして割といい身分とは思っていたが、ここまで来るとなると富豪の娘という線も出てきたな。
「君、名前は何って言うの?」
「あたしはライカよ。あなたは?」
「俺は善大王さ。変わった名前だけど、これが俺の名前だ」
その言葉を聞いた瞬間、ライカちゃんは驚いたような顔をした。
「あんたが善大王なの? えっ、へぇ……」
「あれ? 善大王のこと知ってた? はは、驚かせちゃったかな」
「驚いてはいないけど……なんでこんなところにいるのよ」
「ま、ちょっとした用事さ。王様としてね」
善大王のことを知っているらしいが、口調を改める様子は一切ない。どういう子なのだろうか。
「ほら、お家が見えてきたわ」
「ほうほう、どれどれ……ん?」
ライカが指さした方向には、城があった。