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雑談に花を咲かせていた真っ最中、フィアは唐突に問いを投げかけてきた。
「そういえば、さっきシナヴァリアさんと何を話していたの?」
「ン、国の話だ」
「ライトってそうやって誤魔化そうとするよね。私だって、少しくらいは分かるのに……細かく教えてよ!」
「あのな、分かるなら聞いてくれるなよ。一応は光の国の機密──秘密なんだぞ」
「でも、天の国と光の国は仲良しなんでしょ?」
知っているといいながらも、フィアはなにも理解していなかった。
天の国と光の国、その両者の関係は決して悪くはない。だが、よくもない。
利害関係もなければ、血縁関係は始祖にまで遡ることになる。さらにいえば、正統王家も今では窓際だ。これでは本当の意味での協定国家とはいえない。
同じ大陸だからこそなにも問題が起きていない。その程度の関係だ。
しかし、そんな現実をフィアに告げる善大王ではない。子供は程よく夢を見
て、今という時間を楽しむだけでいい、それが彼の信条だった。
「親しき仲にも礼儀あり、だ。秘密は秘密ってことだ」
「私が厚かましいって?」
「天の国からはフィアっていう、すばらしい存在を借り受けている。これ以上はこっちが謙遜してしまう」
嘘だが、善大王の口調ではそうとは思えなかった。
「えへへ、ライトがそういうなら……でも、頼ってくれてもいいんだよ?」
「ああ、時が来れば頼ませてもらうよ」
こうして、善大王は無事にフィアを丸めこんだと思っていた。
善大王からすれば、少女の一人や二人を丸めこむなど容易だ。むしろ、目的の為とあれば国すら踊らせかねない。
ただ、それは飽くまでも普通の世界での話。相手が巫女ともなると、例外ともなってくる。
翌日、馬車に乗り込んだ善大王は静かに目を閉じ、背に凭れる。
「……なんで、お前がいるんだ?」
「だって、ライトがいないと寂しいんだもん」
「なぁ、俺は国の用事で出かけようとしているんだぞ? それでもついてくるのか?」
「うーん、それでもついて行きたいかな」
善大王が通信術式を展開し、シナヴァリアに繋ぐと、すぐに声が聞こえてきた。
『はい』
「おいシナヴァリア」
『なんでしょうか』
「何故フィアを入れた? お前、俺の話を聞いていなかったのか?」
『フィア様から嘆願されたのですよ。天の国との関係に波風を立てぬよう、私の方で独断させていただきました』
「分かった。よし、フィア降りてい──」
善大王がフィアを馬車から降ろそうとした時、馬は待ちきれないとばかりに走り出した。
『時間になりましたので出発させました。定期船に間に合わなくなりますので、ご容赦を』
早々に諦め、善大王は再び目を閉じた。
「ライト、楽しみだね」
「お前、少しは話を聞いておけよ……」
善大王の自由散策計画は、一瞬で瓦解した。




